創業3年目のRist(本社東京都目黒区)は、製造業における目視検査をAI(人工知能)で代替するための開発を手がけ、急成長している。2019年1月には京セラコミュニケーションシステムの出資を受け、京セラグループの工場へのAI導入も支援。培ってきたノウハウを生かして日本の製造業にAI変革をもたらすべく、事業を加速させている。

プログラミングの面白さに引かれ起業の道へ

 Ristの代表取締役である遠野宏季氏は現在27歳。起業したのは24歳の時だ。京都大学で化学を学んできた遠野氏。大学院に進学し、博士課程を目指そうと考えていたころ、転機が訪れた。


 「当時、アカデミアの世界で基礎研究を通して新しいものを生み出していくことに面白さを感じるとともに、もっと目の前の社会課題に対して取り組んでいきたい気持ちが強くなっていました。facebookやtwitterのように、論文にはならなくとも、新しい発想で社会の人たちに役立つサービスをスピーディに出していくことに興味が出てきたのです」


 きっかけは、大学院で化学を学ぶ一方で、医工連携コースで学んだこと。京都大学には博士課程教育リーディングプログラムという、いわゆるダブルスクールのような制度がある。医工連携コースでは、「仮想現実デイケアプラットフォーム」というテーマを研究した。VR(仮想現実)技術を使って、老人が自宅に居ながら遠隔地の人と会話できたり、一緒に体操できたりするサービスである。この研究を通して、プログラミングについても学び、世の中にインパクトを与えられるものを自分でスピーディに作れることに気づいたという。


 「プログラミングは面白いと思いました。これから自分がやるのは化学じゃないと実感したのです。先生には“来週から来られなくなりました。遠野は死んだと思って処理してください”と言って大学院を辞めることにしました」。2015年の5月のことである。

紆余曲折の末、行き着いたのが製造業向けAI

 会社を立ち上げるまでには1年強のブランクがあった。


 「大学院をやめたあとシリコンバレーで起業しようと思って、借りていた京都の部屋を解約してしまったのです。そこで、肝心のプロダクトがないことに気づき、急いでプロダクトを開発することにしました。開発したのは、世界中に散らばっているネットワークにつながった目を共有するサービスで、人々がスマートフォンでつながることができるSkypeとGoogle Mapを合わせたようなアプリです」


 住む場所がないため、キャリーバッグひとつであちらこちらに寝泊まりしながら、昼夜を問わず開発に集中した。そうして、いざモノが完成し、日本で投資家を回ったものの、すぐに投資してくれるところはなかった。


「自分で資金を貯めてやるしかないと覚悟を決めました」。独学で学んだプログラミング技術を生かして、開発を請け負いながら起業資金を貯めようと考えた。そんな矢先、偶然にも大学の先輩からAIをやらないかと声をかけられた。


「横浜DeNAベイスターズのオーナーだった春田真氏が投資して2016年2月に京都で立ち上げたエクサインテリジェンス(現エクサウィザーズ)というAIベンチャーで、半年間限定でプログラミングの手伝いをさせてもらいました。資金が貯まったので、2016年8月にRistを立ち上げました」


 とはいえ、設立当初はAIのビジネスを手がけたわけではなかった。


 「ホームページに“科学技術で社会課題を解決する”とうたったのですが、これといって大きな仕事はありませんでした。例えば、農家がイノシシの被害で困っているということで、ゲーマーに遠隔でドローンを操作してもらい、たくさんのイノシシを追い払った者は猪肉がもらえるというプロジェクトを手がけましたが、農家や現場の猟師さんに受け入れられなかった。動物愛護の観点からも課題があって、事業として成り立ちませんでした。Webページの開発を受託しながら、なんとか食いつないできました」


 そうこうしている中で、ある人から「製造業の製品検査が人手不足で、しかも精神的に辛い仕事のため辞めていく人が多くて困っている。これをAIで解決できないか」と相談を持ちかけられた。


 「実際に製造業の現場に出向いて、製品の検査業務の大変さを痛感しました。そこで、AIを使った画像検査を提案したところ、採用されたのです。この会社が困っているなら他の会社でも困っているだろうということで、ホームページに“AIで検査をやります”とうたったところ、次々と問い合わせが来るようになったのです」


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