(前編からのつづき)


 Ristの代表取締役を務める遠野宏季(えんのひろき)氏は、親の仕事の関係で高校生までを広島で過ごした。


 「自動車整備士だった祖父やエンジニアである父親の影響と寛容な母親の下で育ったため、小さい頃から身の回りにあるガラクタを使って物を作ることが好きでした。小・中学生のころは、発明工夫展に出展してよく賞を取っていました」


 発明少年だった遠野氏は、視力が弱い人向けに超音波サングラスを開発したという。サングラスに超音波発信器を付けて、目の前に壁などの障害があると音で知らせるというものだ。このほか、学校での掃除を楽にするために、雑巾の前に小さな箒(ほうき)を付けて、掃く作業と雑巾掛けを同時に行える“雑巾棒”という掃除道具も考案している。


 ゴキブリを触るのが苦手な母親を見て、殺虫スプレーをかけた後にひっくり返っているゴキブリを回収する道具も考えた。


 「長い棒の先に両面テープを付けてゴキブリをくっつけて、棒を引っ張ると袋に回収されるというもので、“バグ・ペタホイ・マシーン”と名付けました」


 ペットボトルを簡単に潰して圧縮できる機械も開発したそうで、少年のころの発明について語る時の、遠野氏の目はキラキラと輝きを放っている。Ristでの数々の取り組みは小さい頃からの発明の延長線上にあるようだ。

ロボティクスで検査の精度向上へ

 発明家魂を持つ遠野氏がいま最も力を入れているものは何かを問うと、「ロボティクス」という言葉が返ってきた。具体的に取り組んでいるのが、立体物の検査だ。


 「例えば、立体物の検査の精度を向上させるために、立体物をロボットアームでつかんでから回転させ、光の反射や影の変化を解析してキズを見つける検査もロボティクスの一つです。目視で検査する際にも、手に持って回転させながら検査しますが、こうした動作をロボットとカメラに代替させようとしています。複数の入力を基にした、いわゆるマルチモーダルの考え方を取り入れたものです」


 ロボティクスにより、AIによる製造物の品質検査の向上を目指している。ロボットにセンサーを取り付ければ、形状や重量、温度などのデータも収集できるため、ロボティクスは多様な可能性を秘めている。

リモート勤務、システム化で働きやすい職場作り

 Ristの従業員はフルタイムが5人、フリーランスと大学のインターンシップを含めても約20人である。少数精鋭の体制で20以上のプロジェクトをこなしていく上での大変さはないのだろうか。実は、働き方にも工夫がある。


 「会議や会議のための資料作りは極力減らすようにしています。情報の共有を図るためにチャットツールを使うなどシステム化・自動化にも取り組んでいます。検査手法はどんどんため込んでいますし、1回手がけたことであれば、ゼロから開発しなくて済みます」


 いわゆるリーン・スタートアップを実践していると言ってよいだろう。勤務体制にも配慮している。


 「フルタイムといっても9時から夕方6時までで残業はほとんどありません。裁量労働制にしており、私は指示を出すだけで各自の判断で働いてもらっています。フリーランスやインターン生は原則、リモート勤務にしています。もちろん出社して議論した方がよい場合もありますが、出社した場合はインターン生には対価を上乗せしています」


 オフィスでは、お菓子や飲料は無料で自由に食べたり飲んだりできるようにしている。  「全員が同じような机に座っていますし、職場の雰囲気は大学の研究室のような感じです」  アイデアを大切にする遠野氏の直感で、いつの間にか自由な発想を生み出す環境が作られている。

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夢は“発明おじさん”

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