あなたは、この1週間の自分の食生活を思い出せるでしょうか。あるいは、1日の摂取カロリーがどれくらいなのか把握していますか?


 食生活は健康な身体を維持していくために重要な要素の一つですが、それをマメに記録したり管理したりというのは手間がかかります。そういう方たちに向けた、日々の食事内容や摂取カロリーを手軽に記録・管理できるスマートフォンアプリがあります。「FoodLog」がそれです。実は、ここに集まるデータは、利用者自身の健康管理だけでなく、食関連のマーケティングにも応用できそうです。今回、このFoodLogについて取材しました。


 FoodLogは、日々の食事を写真で記録するライフログツールです。しかも、写真から料理名を自動的に推定、摂取カロリーを計算することにより、日々の食事内容や摂取カロリー、食事の時間帯などを手軽に記録・管理することができます。


 例えば下の画像のように、スマートフォンで撮影した食事の写真をアプリ上で選択すると、1皿ごとに料理名が推定され、そのカロリーが表示されます。見た目がよく似た違う料理の名前が表示されることもありますが、その場合は同じ画面上で料理名で検索できます。検索しても出てこない場合には、自分で料理名を入力して登録します。100%の正解率ではないにせよ、それなりに高い頻度で当ててくれるので、全て手動で入力するよりもはるかに手軽に食事についてのデータを記録できます。


FoodLogの画面

 このほか、1カ月に食べた料理をカレンダー表示で一覧したり、摂取カロリーや体重の推移をグラフで管理したりという機能もあります。これらはレコーディングダイエットなどに使えそうです。


 FoodLogは東京大学情報理工学系研究科の相澤研究室で開発され、研究のツールとしても使用されているもので、アプリを通じたサービスは東大発のベンチャー企業Foo.logが提供しています。Foo.logを立ち上げた、東京大学の相澤清晴教授に話を聞きました。

最初は食事カレンダー、その後カロリー推定に発展

どういう経緯でFoodLogの研究・開発を始めたのですか。


相澤氏 もともと私の研究室では、2000年以前からライフログを研究テーマの一つとしていました。ライフログというのは、生活の様々な情報をデジタルデータとして記録することです。2007年頃、「食事の画像処理をしたい」「食事を撮ったらカロリーが見えるようにしたい」と言った学生がいて、食事だけのログを取ってみるというのは課題として面白いのではないかと考えたのが、FoodLogを開発することになったきっかけです。はじめはWebサービスとして2009年にリリースし、2013年にアプリ版をリリースしました。


 始めたばかりの頃は、画像からのカロリー推定は技術的に難しく、まずは食事のログを取り、食事カレンダーを作ることにしました。Web版をリリースした頃は、料理の写真をアップロードすると、厚生労働省と農林水産省が出している食事バランスガイドに基づいて、各料理を主食、副菜、主菜、牛乳・乳製品、果物の5カテゴリーに分類し、どのカテゴリーをどれくらい食べているかを表示する仕組みになっていました。


 そうやって取り組んでいるうちに、どんどん面白くなってしまって、今もFoodLogに関連する研究を継続しているというわけです。


 この研究を今でも続けられている理由には、Foo.logの存在もあります。FoodLogはもともと5年程度の研究プロジェクトの一環で、研究室内の設備を使って運用していましたが、プロジェクトが始まって1~2年たった頃、FoodLogを扱う事業体を共同創業することになりました。実際のところ、昔、隣の研究室にいた学生が作ったベンチャー企業が屋号をFoo.logに変え、FoodLogに取り組んでくれることになったのですが、運用や制作を担ってくれる企業が研究室の外側にできたことで、大規模運用できるようになりましたし、継続性や安定性が得られました。


 一研究プロジェクトのままでは、5~6年のプロジェクト期間が終わった時点で、全てが終わってしまいます。ただ、FoodLogは、食事の記録を取るサービスとして継続的に使ってくれているユーザーがいますし、私たちとしてもこれによってたくさんの食事記録のデータを蓄積し、解析に用いることができるので、途中でパタッと終わってしまうのは、もったいないですよね。

ライフログは目的を決めると扱いやすい

食事の記録について研究することの意義は、どのあたりにあるのでしょうか。


相澤氏 ライフログというのはもともと「生活のあらゆる局面をデジタル化する」という考え方で、実際にやろうと思ったら、マイクとかカメラとか位置センサーとか、色々な機器を身につけて生活しなければなりません。研究としてはチャレンジングで面白いのですが、あまり実用的ではありません。最近は、スマートフォンにいろいろなセンサーが入っていますし、ウェアラブルカメラなど有用なデバイスも多くなってきましたが、それでも、いつ何に使うかわからないデータを延々記録し続けるというのはモチベーション的に弱い。例えば、鍵をなくしたとき、あらかじめいろいろなログを取っておけばそれを元に鍵を探すことができるかもしれません。しかし、そんないつ使うかもわからない理由のためにデータを貯めておくというのは現実的ではありません。


 だとすると、ライフログというのは何にでも使えるデータを取るのではなく、むしろ何かにしか使えないデータを複数取るべきなのではないか。行動の記録を取るツールとか、活動量を計測するウェラブルデバイスとか、様々な選択肢の中から、自分が記録したいものだけを選んで活用すべきではないかと考えるようになりました。


 そうした目的の一つに食事の管理が挙げられます。食事というのは、生活の記録として非常に重要な要素の一つなのですが、いまだに食事の記録を取るための完璧なソリューションはありません。現状のFoodLogではスマートフォンのカメラを使って写真を撮ってもらっていますが、食事の写真を撮る習慣がある人ばかりではありません。そもそも食事の写真を撮るという行為自体、全ての人に受け入れられるわけではないでしょう。例えば活動量は、スマートウォッチなどのデバイスを身につけていれば自動的に計測してくれますが、食事の情報は意識的・能動的に記録する必要があります。肩に小人かロボットでも座っていて、写真を撮ってくれればいいんですけどね(笑)


 もしも、食事する場所が1カ所に決まっていれば、天井にカメラをつけておくという方法もあり得ます。例えばある程度高齢で、ほぼ家で食事をとっているような場合です。加齢に伴い活力が失われ、心身の病気につながる一歩手前の状態を「フレイル」と言いますが、これを予防するために大切なことの一つは、きちんと食事をとり低栄養状態を避けることです。フレイルを検知・予防するために、家のテーブルの上にカメラをつけ、FoodLogのようなシステムで栄養の摂取状況を管理するというのは一つのやり方としてあり得るでしょう。


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東大病院が糖尿病患者向けシステムに採用

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