大多数の企業における目標設定のプロセスは、全社目標を各部門目標にブレークダウンし、部門目標を個人目標に落とし込むというのが一般的です。しかし、基本的な考え方がそうであったとしても、実態はそれぞれの部門目標の積み上げによって全社目標が設定されているケースも少なくありません。

 各部門にはそれぞれのミッションが存在するため、各部門では自分たちのミッションを達成するための目標が設定されます。そのため、全社目標が部分最適の目標を寄せ集めただけのものになってしまいがちです。

 それでは大きなブレークスルーがなかなか起こりません。たとえば、海外事業を拡大するためには国内部門からの製品供給が不可欠であったり、新規事業を拡大するためには既存事業の顧客ベースを生かすことが効果的であったりしながらも、連携がスムーズに進まないことがよくあります。

 多くの企業ではそのような問題を解決するために、部門横断的なプロジェクトが編成されます。しかし、各部門の目標達成が優先してしまう結果、プロジェクトへの十分な協力が得られず、中途半端な結果に終わることが少なくありません。

 既存の組織を所与のものとして目標を設定するという考え方にとらわれていると、いつまで経ってもこのような事態から根本的に抜け出すことはできないでしょう。

既存の組織を前提にしない

 本連載においてこれまで、「目標は上から与えずに本人の主体性を重視する」「個人の目標は広く公開する」というOKRの基本コンセプトについて解説しました。しかし、個人の目標が既存組織の枠内に限定されている状態では、OKRの効果も不十分なものになってしまいます。

 各人が所属する部門の目標達成に貢献する目標を立てようとしても、当の部門目標が毎年、代わりばえしないものの繰り返しであったとしたら、個人の目標も代わりばえしないものにならざるを得ないでしょう。

 各部門の責任者が、自部門の業績に貢献する人材を囲い込もうとするのもよく聞く話です。そのようないわゆる「優秀な人材」が、上から評価されることを重視した、忖度した目標を「主体的に」設定したならば、結局は上から目標を与えるのと変わらなくなってしまいます。

 また、目標を広く公開する方針を定め、仮に個人目標を全社的に公開したとしても、各人が自分の所属部門と自分自身の目標達成にしか関心を持っていなかったとしたら、目標を公開するメリットがありません。

 もちろん、企業内の各部門が部門の目標達成を優先することは当然のことです。問題は、組織の維持が第一なのか、全社の目標達成が第一なのかという点にあります。

部門の縄張りを壊すリーダーシップの必要性

 各部門の存続のために目標があるのではなく、全社目標を達成するために組織があると発想を変えることが重要です。

 全社目標が海外事業や新規事業を飛躍的に拡大することにあるのであれば、その目標達成のために必要な経験や専門性を持った人材が集結するのが合理的なことは言うまでもありません。「組織→人→目標」(組織に属する人が目標を立てる)のではなく、「目標→人→組織」(目標達成のために最適な人々がチームを作る)という考え方です。

 それを実現するためには、各部門の縄張りよりも、全社目標の達成が優先することを徹底するトップのリーダーシップが不可欠です。各部門の積み上げによる目標設定は、結果が読みやすいためリスクも限定的です。しかし、リスクを取ってもより大きな成果を目指すというトップの決意がなければOKRは機能しないのです。

 野心的(アンビシャス)な全社目標を達成するためには、おのずとクロスファンクションでの横の連携が不可欠になります。そのため、個人の目標設定においても、一人ひとりが狭い範囲に閉じこもって自分だけの目標を考えるのではいけません。コラボレーションによってより大きな成果を生み出せる可能性がある人々と、組織を超えてコミュニケーションを図ることが重要です。OKRはそのような創造的なコミュニケーションを促進するツールであるともいえるのです。

松丘 啓司(まつおか・けいじ) 株式会社アジャイルHR 代表取締役
松丘 啓司

 1986年東京大学法学部卒業後、アクセンチュア入社。同社のヒューマンパフォーマンスサービスライン統括パートナーを経て、2005年に企業の人材・組織モデル革新を支援するエム・アイ・アソシエイツ株式会社を設立。同社ではパフォーマンスマネジメント、ダイバーシティ&インクルージョンなどの領域を中心にサービスを提供。2018年にパフォーマンスマネジメントに特化した株式会社アジャイルHRを設立し代表取締役に就任。主な著書として、『1on1マネジメント』『人事評価はもういらない』『論理思考は万能ではない』『アイデアが湧きだすコミュニケーション』『ストーリーで学ぶ 営業の極意』『提案営業の進め方』『組織営業力』などがある。

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。