社会人の学習の70%は仕事の経験を通じてなされると言われています。そのため、1on1の目的が部下の成長を支援することにあるならば、1on1とは部下の経験学習がより効果的なものになるように上司が支援する場であるとも言い換えることができます。

 では、部下の経験学習を効果的に支援するために上司に求められることは何でしょうか? その問いに答えるためには、経験学習とはどのようなものかを理解する必要があります。

心のセンサーの感度を上げる

 経験からの学びを豊かなものにするには、2つの重要なポイントを意識する必要があります。1つ目は、そもそも学びの可能性が豊富な「良質な経験」をすることです。ただし、どれだけ良質な経験をしても、そのままにしていては学びが得られません。そのため、個々の経験からいかに「効果的な学習」を行うかが、2つ目のポイントになります。

 有名な「コルブの経験学習モデル」に従って、もう少し具体的に見ていきましょう。経験学習モデルでは次の4つのステップが定義されています。

1. 具体的な経験
2. 内省的な観察
3. 抽象的な概念化
4. 積極的な実験

 経験学習ですから、「1. 具体的な経験」が学習のスタートです。経験からの学びとは、何かの理論や知識を誰かに教えてもらうことでなく、自分自身で「気づく」ことです。「気づく」というのは、その経験にどのような意味や価値があるかを認識することです。それが「3. 抽象的な概念化」に当たります。

 そのため、「1. 具体的な経験」と「3. 抽象的な概念化」の間にある「2. 内省的な観察」のステップが重要です。「内省」は英語では「リフレクション」、日本語では「振り返り」と呼ばれます。

 「振り返り」はただ単に、何が起こったのか、なぜ起こったのかを思い出すだけではありません。より重要なことは、その出来事が自分の内面にどのようなインパクトを与えたかを思い起こすことです。内面へのインパクトは「感情」として現れます。したがって、自分の感情に向き合うことが「気づき」の出発点になるのです。

 その感情には「楽しかった」「うれしかった」といったポジティブなものもあれば、「悲しかった」「腹が立った」といったネガティブなものや、「何となくモヤモヤする」といったどっちつかずのものもあるでしょう。自分の心をセンサーとして、なぜそのセンサーが反応したのだろうかと、自分にとっての意味を考えるのが「3. 抽象的な概念化」といえます。

 この1~3のステップをしっかりと行うことが、「効果的な学習」につながるのです。

ネガティブな感情を乗り越える

 ではもう1つのポイントである「良質な経験」をするためには何が必要でしょうか? そのためのステップが「4. 積極的な実験」なのです。

 経験からの学びを次の経験に生かすには、積極的に実験しようとする行動が重要です。これまでと同じような行動をただ繰り返していてもそこからの学びは少ないでしょう。見知らぬ景色を見るために旅に出るような行動が求められるのです。それは「チャレンジ」と言い換えられます。

 しかし、ただチャレンジするのではなく、何らかの仮説を持って実験的にチャレンジすることが重要です。それによって、行動した後に仮説の検証が可能になるからです。

 チャレンジする課題を設定する際に、そもそも何にチャレンジをすればよいのかが分からないこともあるでしょう。その原因は多くの場合、経験を振り返って学んでいないことにあります。経験からの「効果的な学習」ができていれば、「次は~にチャレンジしてみよう」という道筋が見えるはずです。

 チャレンジに関するもう1つの重大なテーマは、チャレンジを阻害する心理的な抵抗の存在です。「うまくできるかどうか自信がない」「現状を変えることが怖い」「周囲にどう思われるか不安だ」といったネガティブな心理が、チャレンジの阻害要因になります。

 チャレンジができない理由としては、心理的な抵抗の方が大きいことが通常です。そのため、「4. 積極的な実験」を行うためには自分のネガティブな感情を乗り越えることが求められるのです。