上司の「姿勢」と「実践」にかかっている

 以上でお分かりのように、経験学習では「感情」がきわめて重要な要素になります。そのため、1on1においては部下が自分の感情に向き合い、自己開示して話せる場を作れるかどうかがその効果を大きく左右すると言っても過言ではありません。

 では、そのために上司に求められることは何でしょうか? それはコーチングやフィードバックのスキル以前に、上司の「姿勢」と上司自身の「実践」にかかっています。反対に、上司の姿勢と実践が欠けていたなら、どれだけスキルを学んでも効果がないばかりか逆効果にもなりかねません。

 「上司が受け止めてくれる」「自分のことを応援してくれている」と安心できるからこそ、部下は身構えることなく自分の内面に向き合い、言葉にすることができるのです。「部下のことを支援したい」「応援したい」という上司の姿勢は部下に必ず伝わります。

 言い方を換えれば、上司が「部下に関心」を持っているのか、「自分自身に関心」を持っているのかという、関心の焦点のありかの問題ともいえます。上司が上司自身に関心を持った状態で1on1に臨んでも、部下はけっして自分の気持ちを率直に語ることがないでしょう。

 上司に求められるもう1つのことは、上司自身が経験学習を「実践」しているかどうかです。葛藤を乗り越えてチャレンジをしたり、経験を深く見つめて学んだりすることのない上司から、部下は支援を受けたいと思えるはずがありません。

 1on1は部下にとっての経験学習の場ですが、その前提として上司自身が日々、経験学習を実践していることが不可欠なのです。

松丘 啓司(まつおか・けいじ) 株式会社アジャイルHR 代表取締役
松丘 啓司

 1986年東京大学法学部卒業後、アクセンチュア入社。同社のヒューマンパフォーマンスサービスライン統括パートナーを経て、2005年に企業の人材・組織モデル革新を支援するエム・アイ・アソシエイツ株式会社を設立。同社ではパフォーマンスマネジメント、ダイバーシティ&インクルージョンなどの領域を中心にサービスを提供。2018年にパフォーマンスマネジメントに特化した株式会社アジャイルHRを設立し代表取締役に就任。主な著書として、『1on1マネジメント』『人事評価はもういらない』『論理思考は万能ではない』『アイデアが湧きだすコミュニケーション』『ストーリーで学ぶ 営業の極意』『提案営業の進め方』『組織営業力』などがある。

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。