今回から『人材開発の情識』と題したコラムを書きます。よろしくお願いします。「情識」の意味は本来、頑固ないし強情なのですが、ここでは「情報活用あるいはIT(インフォメーションテクノロジー)利用の常識」のつもりです。人材の開発や活用においてテクノロジーがどう関わるのか、注意点は何か、といったことをお伝えしていきます。これまで経営とITのテーマで日経ビジネスオンラインに『経営の情識』を、IT専門家の方へ向けて日経 xTECHに『谷島の情識』をそれぞれ連載してきました。ヒューマンキャピタル Onlineへの本連載は新たな情識になります。
(文=谷島宣之:日経BP社 日経BP総研 上席研究員)

(写真:123RF)

 働き手が使うパソコンを遠隔から監視し、しっかり仕事をしているかどうか、残業をやり過ぎていないか、確認する。

 事務所内に小型無人機(いわゆるドローン)を飛ばし定時以降も居残りをしている人に帰宅をうながす。

 このように「それはいかがなものか」と言いたくなるテクノロジーの使い方がある。テクノロジーの小型化や高速化が進み、従来できなかったことが可能になったのは結構だが、珍妙な使い方が出てくると困ってしまう。

 働き方改革というと残業削減の話が出る。労働基準法違反はいけないし、違反していなくても残業が続くと当人の心身にも生活にもそして仕事にも悪影響を及ぼす。時間という単位が明確なので改革が進んでいると説明できる数字を測りやすい。

 といって残業削減にこだわりすぎるとかえって働き方の改革を妨げる。ましてやテクノロジーを乱用すると改革は進まないし金の無駄遣いになる。

 残業をなんとしても減らしたい。例えば夜8時以降、パソコンの電源を遠隔操作で切ってしまおう。パソコンを使った時間を計測し、一定時間を超えたら事前申請がない場合、それ以上使えないようにする。仕事用の電子メール送受信を夜間は禁止する。

 かなりの仕事がパソコンで処理されているから動かなくすれば残業はできない。電子メールも閲覧不可にすれば夜間はゆっくり休める。こういう筋書きなのだが、私用のパソコンを使えばいくらでも残業ができる。ドローンを巡回させて帰宅を促し、事務所に鍵をかけたところで喫茶店や自宅でパソコンを開けば仕事は続けられる。

“仕事をさせまい”とする企業

 そうはさせまいと、私用のパソコンから職場の情報システムに保管されている文書や電子メールを使えないようにする組織がある。昼間決まった時間帯に事務所の中でだけ仕事をすることを強いるわけで働き方の硬直化につながる。

 良くも悪くも電子メールがこれだけ普及してしまうと、過度の利用制限は仕事以外のことでも困った事態を引き起こす。ある銀行マンのところに友人の訃報が金曜の昼、電子メールで送られてきた。本人は終日外出しており月曜に行内で電子メールを確認した時にはお通夜も葬儀も終わっていた。行内でしか電子メールを見られない組織は今でもある。

 テクノロジーの利用を迫られ残業を強引に規制されても、働き方改革だといわれると現場は表だって反論しにくい。不満は働き手の中に溜まる。これは危険である。仕事のためにやむを得ないと、重要なデータを社外に持ち出すようになったりしたら漏洩につながりかねない。

 取材時に尋ねると経営者は異口同音に「社員には自由闊達に仕事をしてもらいたい」と話す。そうであれば人的資産が増えるようにテクノロジーを使う「情識」を持って取り組みたい。