大事な言葉は「トレードオフ」

 教科書のような記述になってしまうがテクノロジーとは何か、そこから考えてみよう。「問題解決や課題達成のために人工物を用意して自然を改変すること」である。交通機関、インターネット、医薬品といった「人工物」によって人は自然に備わっている以上の力を出せる。

 自然を改変する以上、テクノロジー利用には副作用がついてまわる。両刃の剣でありテクノロジーを使って働き方改革を進めた場合、良いことも悪いことも起きる。残業規制のようにそもそも副作用がある施策にテクノロジーを安易に使うともっと強い副作用が出る。

 テクノロジーを使いこなす「情識」として「トレードオフ」という言葉を挙げたい。片仮名を避けたいが適切な日本語訳がない。

 トレードオフとは「より良いものにするために何かと何かを交換すること」である。何らかを得るために何かを放棄するという意味だ。

 人という繊細な自然物にテクノロジーを使おうとするなら、意思決定や利用の際に「トレードオフ」という言葉をぜひ思い浮かべてほしい。

 意思決定者が見る提案書や計画案には期待される効果が美辞麗句を使って綴られているが、効果を手に入れるには何かを捨てなければならない。捨てることに痛みを伴う場合、働き手への配慮が求められる。

 テクノロジー利用や時短を迫られる現場の方も何を受け入れ、何を拒否するのか、トレードオフを考えてみよう。使いにくいテクノロジーを押し付けられ、早く事務所から出ろと言われ、目標は必達だと命じられても無理である。意思決定者が妙なことを決めるようなら自分で働き方を変えないと身を守れない。

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谷島 宣之(やじま・のぶゆき) 日経BP 総合研究所 上席研究員
谷島 宣之

 1985年電気通信大学情報数理工学科修士課程修了、日経マグロウヒル社(現・日経BP)入社、日経コンピュータ編集部に配属。日経ウォッチャーIBM版記者、日経ビズテック編集委員を経て、2007年から日経ビジネスオンライン、日経コンピュータ、ITproの編集委員。2009年1月から日経コンピュータ編集長。2011年6月から日経BPビジョナリー経営研究所研究員。2015年から現職。一貫してビジネスとテクノロジーの関わりについて執筆。著書に『ソフトを他人に作らせる日本、自分で作る米国』(日経BP、2013)、『社長が知りたいIT 50の本当』(日経BP、2016)がある。

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。