(写真:123RF)

 新聞や雑誌、Webサイトで報道される流行語の中でここ数年、筆者が最も嫌っているのは「シンギュラリティ」であり、次が「AI(人工知能)」である。嫌いな理由は前者が出来の悪い空想科学小説の類であり、後者が単なるコンピュータ利用の話だからである。AIという文字をコンピュータあるいは情報システムに置き換えれば、大抵の記事はそのまま読める。

 嫌っているなら無視すればよいのだが見出しなどに出てくるとつい読んでしまう。最近では、2019年3月30日付の日本経済新聞に「AI人材『年25万人』へ始動」という見出しの記事が載り、当初は「またか」と思った。「何とか人材が何十万人不足」といった話は数十年前から何度となくあり、一時的に話題になるものの言葉の流行が終わると人材育成施策も立ち消えになる。

 記事の書き出しは「統合イノベーション戦略推進会議は3月29日、AI(人工知能)を使いこなす人材を年間25万人育成する戦略案を公表した」となっている。この手の戦略案は多くの場合、政策という戦術の羅列であることが多いが、一応、首相官邸のWebサイトに行ってみた。

AI戦略といってもAIの戦略ではない

 公開されている『AI戦略(有識者提案)及び人間中心のAI社会原則(案)について』と『「AI戦略 2019」(有識者提案)』を眺めて反省した。年間25万人の育成は戦略の一部に過ぎず全国民をAI人材にするという雄大な構想が記載されていたからだ。人材開発を担当する方にとっては目を通しておくべき資料であろう。

 上記2つの資料から引用しつつ話を進める。まず「教育改革の目標」として次の一文があった。

 「デジタル社会の『読み・書き・そろばん』である『数理・データサイエンス・AI』の基礎などの必要な力を全ての国民が育み、あらゆる分野で人材が活躍」

 ちょっと待ってほしい。AIだけではなく数理やデータサイエンスが併記されている。3点には密接な関連があるがAIと総称してよいのか。こう思われた読者がおられるだろう。よいのである。実は今回の「AI戦略」は驚くべきことにAIだけに関する戦略ではない。

 資料の冒頭に「本戦略におけるAIとは広範に知的とされる機能を実現しているシステムを前提としている」と書いてある。つまりなんでもありである。実際、居直りと呼んでは失礼だが次の宣言が続く。

 「何を以て『AI』または『AI技術』と判断するかに関して一定のコンセンサスはあるものの、それをことさらに厳密に定義することには現時点では適切であるとは思われない。同時にこのようなシステムは高度に複雑なシステムに組み込まれるため、どこまでがAIかを厳密に区別して議論することは有意義ではない」

 すなわちコンピュータを利用した何らかのシステムはすべてAIになる。それならAIと言わなくてもよいと思うが、「コンピュータ利用戦略」「システム戦略」あるいは「情報活用戦略」ではぱっとしないという判断なのだろう。

 上記の定義のようではない定義に従えば「全ての国民」を対象に次の戦略目標を打ち出してもおかしくはない。

 「我が国が人口比において最もAI時代に対応した人材を育成・吸引する国となり、それを持続的に実現するための仕組みが構築されている」

 上記は分かりにくく「アナログ社会の『読み・書き・そろばん』」をまずなんとかした方がよいと一瞬思ったが、「AI時代に対応した人材」の人数を人口で割った比率で日本が一番になりたいという意味だろう。