要するにどういう人材が足りないのか

 それでは「AI時代に対応した人材」とは何か。システムに関わる人材はすべて入る。人材像らしき記述は次の通りである。

 「デジタル・トランスフォーメーションによる社会の大転換期にあっては、変革の中核となるAIを開発し活用する力、ビッグデータを収集・蓄積・分析し、活用して製品・サービスをデザインする力などが社会や産業の活力を決定づける」

 AIやらビッグデータやらを活用して何かを転換することが「デジタル・トランスフォーメーション」であろうから「馬車による社会の転換期には、馬を育て馬車を作る力が社会の活力を決める」という意味になり、何も言っていない気がしないでもないが次の一文もある。

 「『AIを作り、活かし、価値を生み出す』ことにより、新たな社会の在り方や製品・サービスをデザインできる人材等持続可能な社会の創り手」

 ようやく分かった気がする。「新たな社会の在り方」をデザインできる人材、それに資する「製品・サービスをデザインできる人材」、すなわち「持続可能な社会の創り手」が足りないから育てようということである。「持続可能な社会」も筆者の腹に落ちない言葉だがきりがないので追究しない。

 とにかく新たな何かをデザインする際には「広範に知的とされる機能を実現しているシステムを前提」とするから「『数理・データサイエンス・AI』の基礎などの必要な力を全ての国民」が育むように政策を打ち出すわけだ。

 新たな何かには産業も含まれ、「AI-Readyな産業・社会の基盤作り」と題した「大目標」が延々と記述されている。それによると「実世界の個別領域への応用」が期待される。「実世界の個別領域」とは「医療、農業、素材、物流、製造設備など」を指し、「サイバースペース内で完結することがなく、人、自然、ハードウェアなどとの相互作用を通じて初めて価値が生み出される」

 ほとんどの企業は「実世界の個別領域」を相手にしており、価値をデザインできる人材がまさに切望されている。『「AI戦略 2019」(有識者提案)』には案ではあるものの施策があれこれ詰め込まれている。自社の人材の採用や育成の方針を検討するにあたり政府の動きを予習しておくことは無駄ではない。

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「人と仕事の未来 2019-2028」

谷島 宣之(やじま・のぶゆき) 日経BP 日経BP総研 上席研究員
谷島 宣之

 1985年電気通信大学情報数理工学科修士課程修了、日経マグロウヒル社(現・日経BP)入社、日経コンピュータ編集部に配属。日経ウォッチャーIBM版記者、日経ビズテック編集委員を経て、2007年から日経ビジネスオンライン、日経コンピュータ、ITproの編集委員。2009年1月から日経コンピュータ編集長。2011年6月から日経BPビジョナリー経営研究所研究員。2015年から現職。一貫してビジネスとテクノロジーの関わりについて執筆。著書に『ソフトを他人に作らせる日本、自分で作る米国』(日経BP、2013)、『社長が知りたいIT 50の本当』(日経BP、2016)がある。

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。