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 「人事部門は戦略の鍵を握らない。握らせてはいけない」

 日本企業を強くするために人材開発をどう考えていくべきか、と知人に尋ねたところ、いきなりこう言われた。この人は若いうちから米国企業に入り、米国で仕事を続け、事業部門でマネジャ―を務めた。その後、日本に戻って働いたが海外で仕事をした期間の方が長い。

 「日本の人事部のような組織は米国企業にはない。採用する権利、人事権、共に現場の管理職にある。権利があるから人事に関する責任は現場の管理職が負う」

 彼は営業部門のマネジャ―になってから採用や人事も担当した。「採用の面接、評価と報酬に関わる面接、来年どうするかについての面接、とにかく人事関連に時間を割いた」という。

 米国企業にはCHO(チーフヒューマンオフィサー)あるいはCHRO(チーフヒューマンリソーシズオフィサー)がいて人事部門を率いているのではなかったか。ところが彼はにべもなくこう言った。

 「HR(ヒューマンリソーシズ)とかパーソネルとか、そういう部門はヘッドクオーターにあるが人事関係の事務処理を担い、現場の実働部隊を支援するだけの役割。だからアウトソースされやすい」

 人事・給与や経理・財務、情報システムといった本社部門に対し、アウトソーシングの嵐が吹き荒れた時期が確かにあった。だが嵐の後、人やお金や情報を経営としてどう扱うか、戦略を考える部門として復権し、CHOやCFOやCIOの重要性が語られるようになったのではなかったか。

 もっともC文字が付いた役職のありかたを論じていても仕方がない。日本には日本のやり方があってしかるべきで米国のやり方が正しいとは限らない。日本の人事部門を彼はどう評価しているのか。

取締役会より強い日本の人事部門

 「日本企業の人事部門は会社全体の組織を斜め上から見下ろしている。人事をはじめ色々な情報を握っていて何かあると高圧的な動きをする。時には取締役会よりも、あるいは社長よりも上の方から力を発揮する。伝統的な企業であればあるほどそういう感じを受ける」

 日本に戻ってから彼は日本企業に入社したわけではない。ただし日本企業と仕事をする機会が増え、日本企業の不思議な意思決定に何度か直面し、理由を探ると人事部門に突き当たったという。

 事業部門と進めていた案件に横やりが入る。余計なことを言ってきたのはナンバーツーと称される人事担当役員だった。プロジェクトの最中にキーパーソンが異動になった。プロジェクトを快く思っていなかった人たちが人事部門に働きかけ、要となる人材を外させた。

 いわゆる社内政治なら米国企業にも当然ある。だが彼の疑問はスタッフ部門に過ぎない人事部門が日本でなぜ力を持っているのかということであった。そこで知り合いの日本企業社員に色々聞いてみたところ、人事部門が採用を一手に引き受け、異動や昇進昇格にも強く関与していると知って驚いたという。

 「現場部門はこういう人材を欲しいと言えるけれども採用するのは人事部門。成果を挙げた部下へのペイを上げようとしても勝手にはできない。人事部門の指示で部下を異動しなければならないこともある。人に関する権限をこれだけ持っていれば力の強い部門になるだろうが、間違っている」