「皆さん、本当にごめんなさい。火曜日の講演で痛めた喉が悪化してきました。昨日はどうにか声が出ていましたが、今日は、ほとんど声が出ません。今日も皆さんに伝えたいことがたくさんあるのに、うまく伝えられないと思います。こんな最悪な喉の状態になってしまうなんてプロとして失格です。アシスタントの佐藤さんに助けてもらいながら、せいいっぱい頑張りますので、皆さんよろしくお願いします」

 昨年10月末に、講演で張り切り過ぎて声を潰してしまい、そのまま同じ週に管理職対象の「モチベーション・リーダーシップ2日間研修」に登壇することになりました。

 異業種交流を兼ねて5つの会社から30名余りが参加。応募倍率も高かったため、30~40代の受講生たちは学ぶ意欲も満々でした。そんな彼らの胸膨らむ期待とは裏腹に、初日の夕方でガサガサにかすれ始めた声が、2日目の朝には悪化し、ほとんど声は出ず、ダースベーダーのような状態になっていました。

 声を振り絞りながら、身振り手振りで、まさに全身全霊で私の全てのエネルギーを出し切りました。何とか終了できたものの、いつもの達成感はなく、受講生に申し訳なかった気持ちで胸がいっぱいでした。最後に彼らへのメッセージを伝えながら涙がこぼれました。5年ぶりの失態……これでは、受講生たちはいつものように多くの気づきを得られなかったはず……。

 しかし、受講生たちの反応は私の予想とは違いました。

 頭を下げる私に、スタンディングの温かい拍手と「先生ありがとう」の声。そして、彼らの溢れんばかりの笑顔がそこにありました。研修終了後も、初対面同士の30名の受講生たちが旧知の親友のような雰囲気で話し合いを続けていました。そして、パソコンを片付けている私のところに、次々にやって来てくれました。

 「先生、本当に一生懸命教えてくれて、ありがとう。たくさん感動しました。喉、大事にしてください」

 「先生の想い、すごく伝わったよ。感動しました。体に気をつけてください」

 「たくさん笑ったし、たくさん涙出ました。たくさん気づきました。ありがとう」

 「今までで、一番楽しくて、心に響いた研修でした」

 「心で伝えるというのが、どういうことか分かりました。ありがとうございました」

 彼らからのフィードバックに、私は自分が教えていたはずの、大事なことに改めて気づかされました。

リーダー自身が、ありのままの自分をさらけ出すことの重要性

 「リーダーが完璧な姿を見せ続けるのではなく、ありのままの自然体で、弱っている部分や悩んでいる部分も含めて自己開示することが、メンバーとの信頼関係を築く基本」

 私が必ず伝えるメッセージです。だからこそ、私も、自分の人生や心の状態を正直に見せることを心がけて登壇してきました。

 約20年間、年間200日近い登壇をし続けるなかで、完璧な体調と、安定した心の状態の維持がプロフェッショナルとしての当然の義務だと強く思いこむようになりました。元気なふりをするような演技はしなかったものの、振り返れば無理をして頑張っている場面もありました。

 でも今回は演技どころか、ありのままの自分をさらけ出して、ベストを尽くして想いを伝えるしかなかった。この私の姿が、受講生との距離を縮め、信頼関係を深める結果につながりました。

 昨年12月、この異業種研修の参加メンバー有志が私を囲んで、研修後振り返りの忘年会を企画してくれました。そして彼らから、さらにこんな言葉をもらいました。

 「先生は、言いましたよね。『リーダーは完璧な姿をいつもメンバーに見せる必要はない。メンバーを信じて、自然体で振る舞えばいい。モチベーションが下がっている時は、それを正直に伝えれば、メンバーがしっかり支えてくれるから』。先生の表情、教える姿は、まさにその通りで心を打ちました。僕たちは、あの研修で、実体験でそれを学ぶことができました。僕は、メンバーたちに対して格好つけず、自然体でいることを意識しています。そして、自分の気持ちを素直に伝えるようになりました」

 対面のコミュニケ―ションでは、言葉で伝えられる情報量は7%に過ぎず、93%が非言語(表情とボディーランゲージ)だといわれます。このことを、私自身が改めて実感しました。