「『人間力を磨く』というテーマの研修は課長研修には必要でも、部長研修には必要ないですよ。それができているから、すでに部長になっているわけですから。今さら部長が部下育成について学んでいるようではダメ、経営判断を行うスキルを身につける研修が部長たちには必要ですよ」

 数年前、ある研修会社の社長に、私が実施し続けている課長クラス対象の「モチベーション・リーダーシップ研修(人間力リーダー育成)」を、部長を対象に行うことを提案した時の返事です。私は自分がやりたいから提案をしたわけではありません。

 30~40代の課長クラスの受講生たちは研修終了後に必ずといっていいほど、私のところにやってきます。

 「この研修を直属の上司である部長に受けてほしい」

 「自分が人間力リーダー、モチベーション・リーダーになりたくても、上司が昭和の軍隊組織の隊長のようなリーダーシップなので潰されてしまいます。なんとかしてほしい」

 「部長の上から目線の強制的なリーダーシップがチームを壊そうとしています。僕ひとりでは部下を守れない」

 「イクメン世代でワークライフバランスを大切にして働いていたはずが、上司が軍隊型のリーダーシップを良しとしているので、自分も兵隊に洗脳されかけていました」

 こうした受講生の声のフィードバックから、冒頭の提案をしたのです。しかし、この社長は全くその必要性を感じていませんでした。私はまじまじと彼の顔を見て気が付きました。鋭い眼光と眉間の縦じわは、頭脳明晰で優秀な方だと想像させます。しかしピクリとも動かない表情に、「この人の心は全く動いていない、まるでサイボーグだ」と思いました。

 人間力とはすなわち「心を使う力」です。自分が使っていない力を、必要だとはいわないのは当然です。

 後で部下の方に聞いたところ、社長はとても優秀な方で海外勤務の経験もあり出世街道まっしぐら、グローバルな視点も持っていて、超合理的な判断をする経営者とのことでした。経営者としては素晴らしい?のかもしれませんが、人材開発業界をリードされる方としては、私は大いに疑問を感じました。

 おそらく、「この人の下ならさらに成長できるから部下として働きたい」と思える人はいないはずです。経営者が「人間力リーダー」でなかったら、その会社が人を育て生かす組織となることは絶対に不可能です。

人間力なんて必要ない? 当日の受講者は予定の半分だけ

 「モチベーション・リーダーシップ研修」(2日間)は20年間続けており、私は年間で約30回登壇しています。受講者はミドルマネジメント層が中心です。課長職対象(30~40代半ばが中心)の場合もあれば、部長職対象(45歳~50代中心)の場合もあります。混合はありません。

 また、研修を行う時は、参加者に挙手してもらうこともありますし、指名して発言してもらうこともあります。課長職対象では3割ぐらい女性が参加する時もありますが、部長職対象の場合は、女性比率1割ないしゼロというのも、まだまだ多いです。

 昨年12月に行ったこの研修では、50代男性部長の出席率が極めて悪い結果でした。1カ月前に予定受講人数が24名だったものが1週間前には10名がキャンセル、さらに当日2名がキャンセルし12名になってしまいました。その理由は業務都合です。このような研修ではなく、例えば、社長の講話だったら何が何でも参加するはずです。

 研修よりも、業務が優先。しかも研修内容が業務に直轄していない、受講しなくても構わないと対象者たちは思ったのでしょう。