比べてみてください。まず、数年前に行われた、某日本企業トップによるプレゼンテーションのオープニングです(実名は変えています)。

 ただ今ご紹介をたまわりました、ノブモト・テクノロジーの信元でございます。
今日は講演をさせていただく機会をいただきましたこと、大変光栄に存じております。
 「データサイエンスが拓く未来社会」がテーマということでございますが、お時間30分という短い時間でございますので、これからデータサイエンスがどういう価値を生み出していくのか、という生理学を少しお話しさせていただき、皆さま方のご参考になれば、と考えております。

 次に、Ciscoの前CEO、ジョン・チャンバース氏によるCiscoLive 2015でのオープニングです。

 25年前このイベントを始めた時、会場に25人しかいませんでした。この25年間で私たちは、共に働いて、世界を変えることを学んできました。しかし皆さんはまだ何も見ていないのです。でも我々は共に協力し合えば、ネットワークの力で世界を、そしてすべてのビジネスを今の5~10倍へと変えることができるのです。そのためにはビジョンが大切です。ではどうやってそんな世界を作るのか。テクノロジーは最も簡単な部分にすぎません。今日お話しすることは、3つの重要な「変革」-組織の変革、プロセスの変革、文化の変革、この3つです。

 1分にも満たない講演の冒頭部分だけを比べてみても、かなり印象が異なるのが分かります。この違いはどこからくるのでしょうか?

 一言で言うならば、それはストーリー性です。

 前者の例は、日本でのプレゼンに頻繁にみられるパターンで、社交辞令に基づいた挨拶がほとんどです。

 さらに、聞き手の立場に興味を持たせるのではなく、「私が」光栄に感じるという自分の立場で、すでに聞き手全員が知っていることを改めて強調し、「30分という時間」と謙遜で言っているつもりが、「短いからあまり価値を得られないんだな」、という印象を聞き手に与えてしまう決定的なミスをしています。つまり、分かり切っている事実ばかりで、聞き手にとってのベネフィットも興味も感じられないオープニングになってしまっています。

 一方、Ciscoの例では、「25年前、このイベントを始めた時……」と、いきなりストーリーで始めています。「この25年間で私たちは、共に働いて……」と、聞き手に一体感を冒頭から感じさせ、「しかし皆さんはまだ何も見ていない」と、意外性を出すことで強烈に聞き手の興味をひき出します。さらに、「でも……5~10倍変えることができる」と述べて、聞き手の期待感を高めています。そして、聞き手がその時点で感じる「ではどうやって?」という質問の答えが、これから話す内容なのだ!と簡潔に語り、聞き手の心と頭を、「聴く」体制へと整えています。

 社交辞令ほか、無駄な情報は一切省き、ストーリーで始まっているからこそ、冒頭から引き込まれるプレゼンになっているのです。

情報をストーリーに

 「ストーリー、ストーリー、ストーリー!!」

 スピーチの達人たちは口をそろえてこう言います。

 例えばパブリックスピーキングの大御所で、全米プロスピーカー協会の殿堂入りをしているパトリシア・フリップは、ストーリーが持つ力について次のように語っています。

 “People resist sales presentation. But nobody can resist a good story……well told. And a trivial story well told is much more memorable than a great story poorly told.”
 (人は、営業プレゼンには抵抗がある。しかし、巧みに語られた良いストーリーには誰も抵抗することができない。そして、下手に語られた素晴らしいストーリーよりも、巧みに語られた些細なストーリーの方が、はるかに記憶に残る。)

 また、1999年の国際スピーチコンテスト世界大会優勝者であるクレッグ・バレンタイン氏も、コーチングをする際に必ず、クライアントにこう尋ねるそうです。

 “Forget about your speech for a moment. Tell me your story.”
 (まずはスピーチについては忘れてください。あなたのストーリーを聞かせてください。)

 人は誰しも、情報ではなく“?ストーリー”にひきつけられるものであり、素晴らしいストーリーを下手に語るよりも、ごくごく単純なストーリーを素晴らしく語った方が、聞き手の脳裏に焼きつくものです。