聞き手視点のメッセージと目的に沿ったストーリーを探し当てる

 さらに、ビジネスプレゼンにありがちなもう一つの欠点がありました。

 それは、プレゼンの中にストーリーが組み込まれていなかったことです。たとえ相手が、厳しい目で事業を判断する投資家であっても、生身の人間です。

 アリストテレスは、人が説得されるには、「エトス(倫理アピール)」、「ロゴス(論理アピール)」、「パトス(情緒アピール)」の3つが揃うことが必要だ、と説きました。ただしこの3つのバランスは場合によって異なります。

 投資家が、投資対象を判断する際には非常にロゴス寄りの観点からプレゼンを聞くことでしょう。

 しかし厳しく判断する相手だからこそ、しっかりと情緒アピールも怠らず、彼らの「聴く心」を開き、ポジティブでオープンマインドにプレゼンを受け入れてもらう必要があります。そのためには、ストーリーの力が欠かせません。

 では、どんなストーリーを組み込めばよいのか。聞き手視点を前提に、このプレゼンの目的を再確認しながらストーリーを選んでいく必要があります。

 O氏の場合、起業当時の苦労話や、ロシアから調達してくる希少品にまつわる歴史、会社が倒産しそうになった時にどう乗り切ったか、などなど、実にたくさんのストーリーが出てきました。

 「資金を投ずる投資家」という聞き手に対し、「彼らから投資を獲得すること」を目的として組み立てるプレゼンです。そしてワンビッグメッセージは、「ニッチなニーズを埋める物品調達の専門家(19字) 」です。

 O氏に様々な角度から質問をしながら、この聞き手と目的に合ったストーリーを掘り起こしていくと、「他社にはなしえない、自社ならではのネットワークで希少品を開拓するノウハウと、それを確実に商流に乗せるユニークなプロセスを開発するまでの秘話」を探り当てることができました。

 このストーリーをもって、「「ニッチなニーズを埋める物品調達の専門家(19字) 」として、他社では到達しえない市場の隙間から収益を確実に上げ、高いROIをお約束する」というメッセージにつなげ、投資家から、「資金を投ずるに値する事業なのだろう、もっと話を聞かせてくれ」というリクエストも引き出すことができました。その結果、見事、3億円の投資を獲得することができたのです。

 ストーリーは、聞き手の心を開く鍵のようなものです。

 聞き手の心が開いたら、あなたのプレゼンの成功は、すぐそこにあります。ぜひ、ビジネスプレゼンにもストーリーを活用していきましょう。

リップシャッツ 信元 夏代(りっぷしゃっつ・のぶもと・なつよ)

アスパイア・インテリジェンス社 代表取締役
ブレイクスルー・スピーキング代表

リップシャッツ 信元 夏代  早稲田大学商学部卒。ゼミ専攻は「異文化コミュニケーションとビジネス」。NYUにてMBA取得。1995年に渡 米後、伊藤忠インターナショナルにて鉄鋼、紙パルプ業界の営業・事業開発に携わる。その後マッキンゼーに て消費財マーケティング・事業プロセス改革などの業務に携わった後、2004年に、事業戦略コンサルティング 会社のアスパイア・インテリジェンス社を設立。
 TEDxTalk スピーカー。2013年、2014年春季トーストマスターズインターナショナルの国際スピーチコンテス トでは、日本人初の地区大会優勝2連覇を果たしている。この経験を受け、2014年9月にブレイクスルー・スピ ーキングを設立。グローバルに活躍したい日本人のためのグローバルパブリックスピーキングのE-learningプ ログラムを中心に、個人コーチングセッション、企業内研修等も行う。
BREAKTHROUGH Speaking: https://www.btspeaking.com

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。