まだ私が新米コンサルタントだった頃のことです。MBAやトップ戦略コンサルティング会社、日系大手の商社などの名前が履歴書に並び、自信をもって自分の戦略コンサルティング会社を立ち上げ、順風満帆なスタートを切っていました。私は「MBAを取得した戦略コンサルタント」らしく、論理的思考を活用したリサーチ、分析、戦略設計などを得意としていました。

 そんな折、ある日本の伝統的な業界の会社からコンサルティングの依頼を受け、ロゴス(論理的アピール)全開のプレゼンを大成功させました。ところが、その大成功だったはずのプレゼン直後、その会社のトップから呼び出され、即首を切られてしまったのです。リサーチや分析力は優れていました。今、その時のプレゼン資料を見直しても、なかなか良い戦略が描かれていました。

 何がいけなかったのか。首を切られた経験はなかったとしても、あなたも一生懸命に作り上げて発表した内容が、あっけなく却下されたり、批判されたり、なかなか首を縦に振ってもらえなかったりといった経験が一度はあるのではないでしょうか。

 この連載を読んでこられた皆さんならすでにお気づきでしょう。私の失敗の原因は、エトス(倫理的アピール)とパトス(情緒的アピール)の欠落にありました。人は論理だけでは動かせない――。このことを学んだ、痛い経験でした。

 そんな新米コンサルタントの時期から15年以上たち、プロフェッショナルスピーカーとして活動をしている今、このような失敗談すべてが「学び」となり、基調講演や研修、ワークショップなどでの貴重な「ストーリー」の宝庫となっています。このような失敗談がストーリーの種となり、聞き手にとっても学びの種となり、彼らのビジネスが、あるいは世界観が好転していくきっかけになるのです。

 ストーリーを作り上げるということは、実は表面上のことであって、実際には自分自身を豊かにしてくれるものです。なぜなら、ストーリーを作り上げる過程というのは、自分にしか語れないものを探り当てるため、深く内省していくプロセスそのものだからです。失敗や苦悩など、できれば公にしたくないような出来事とあえて直面し、学びを引き出し、それを自分自身のストーリーとして自分のことばで語っていくことで、聞き手も共感し、心がつながり、自分自身の世界も広がっていくのです。

 ストーリーには、誰かの人生を変える力があります。あなたのことばで、心が、人が、世界がつながっていくのです。そして、その力は、誰のまねをすることでもなく、ありのままの自分をさらけ出すことを恐れず、自分らしさを追求していくことで得られる力です。あなただけのストーリーを探り当てる内省プロセスを経て、その力が得られます。人生を変えてくれる力を持つリーダーこそが、私たちがついていきたいリーダー像、そして自分自身が目指したい姿ではないでしょうか。

 約10年にわたって続けてきた連載も、今回が最終回です。私がプロフェッショナルスピーカーとして、モットーとしていることを皆さんにお届けしたいと思います。それは……

 「Changing the world, one speech at a time」(英語8語)
「世界を変える。スピーチひとつひとつで。」(日本語17文字)