自分の考えを表明しないことがリスクになる時代

 多様な人たちが社内で一緒に仕事をするために、非常に重要なのが相互理解です。なぜなら、お互いのバックグラウンド、すなわち価値観や、優先順位、時間感覚などが違いすぎるため、日々様々な葛藤が起こり得るからです。

 お互いの考えがとっさに分からず、また場合によっては受け入れがたいため、無駄な争いが起きたり、時に、相手を理解できない不安が先行し、たった一つの指示でパニックが起こるなどの事態が発生することもあります。

 こうしたトラブルを防ぐには、日頃から、各人の考えの根幹にある価値観、自分の感性や発想などを、どんどん周囲に伝えていかなければなりません。ダイバーシティ時代には、かなり本気を出して自分らしさを伝えないと、「伝わらない」と感じます。

 例えば欧米のような多民族国家では、自己表現を非常に重視しています。海外留学や、外国人と仕事をして「日本人はYesもNoも言わない」「どちらでもいい、という返事は、解釈が難しい」と返された経験がある人も多いでしょう。

 日本人は今まで「あ・うん」の呼吸で、比較的同じ価値観の人たちと一緒に育ち、働いてきた歴史があります。この「自分らしさをしっかりと伝え合う」という面については、残念ながら世界の中で遅れをとっていると感じます。

 「本気を出して伝えないと、伝わらない」……これはハートの部分はもちろん、技術的な側面もあります。自分の考えを明確に言語化する技術、話し方や立ち居振る舞い、プレゼンテーションの技術、自分がどういう人物なのか一目で分からせる装いの技術、日々の発信力など、自分を伝えるには技術の研鑽(けんさん)も大いに必要です。異文化の人と相互理解を推進するには、ハートに加え、技術も必要なのです。

パーソナルブランディングでイノベーション
を創出する

 自分の考え方、感性や発想を言語化し伝えていく習慣は、企業内でのダイバーシティの推進だけではなく、イノベーションを生むことにもつながります。

 多様性のある人たちが、安心できる場の中でアイデアや意見を自由闊達に出し合い、深く対話し、新たな視点で商品やサービスを開発する。イノベーションは、こんな場所から生まれてくるものです。

 他者の反応に怯えたり恥ずかしさを感じることなく、自然体の自分でその環境を捉えることができる、このような場を心理学用語で「心理的安全性」と表現します。心理的安全性が高い場を作るには、まずそれぞれの人たちの自己開示が大切なのです。

 ダイバーシティ(多様性)が、イノベーションを生み、ひいては社会が豊かになっていく。この「正のスパイラル」がダイバーシティ推進の醍醐味でしょう。まずは一人ひとりの個性を認め、発信力を増すパーソナルブランディングから取り組んでみてはいかがでしょうか。

守山 菜穂子(もりやま・なおこ) 株式会社ミント・ブランディング
代表取締役/ブランドコンサルタント
日経BP総研 客員研究員
守山 菜穂子

多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒。(株)読売広告社を経て、2000年(株)小学館に入社。ファッション雑誌や情報誌のメディア営業として、10年間で国内外約1,000社の企業とブランディングのプロジェクトを行う。2010年よりデジタル事業局にて、電子書籍・デジタルコンテンツの開発やWEBマーケティングに携わる。
2014年にブランドコンサルタントとして独立。2017年(株)ミント・ブランディングを設立し、代表取締役に就任。現在は企業やクリエイターに向けてブランディングや広報のノウハウを提供し、企業研修やセミナー講師としても活動する。

守山菜穂子 公式サイト
http://naoko-moriyama.com/

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。