世界に先駆けて2002年よりダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を推進してきたノバルティス(本拠地スイス)。日本法人ノバルティス ファーマも2006年4月にダイバーシティ推進室をつくり、D&Iを推し進めてきた。2017年に綱場氏がトップに就任して以来、その勢いは加速しているようだ。同社のD&Iの施策とイノベーションにつながる人材マネジメントについて話を聞いた。(取材=大塚 葉:日経BP総研 HR人材開発センター長、文=船木麻里)

企業文化改革として「アンボスリーダーシップ」を推進

――社長に就任されて、2年間で一番力を入れたダイバーシティの施策は何でしょうか。成果も教えてください。

綱場社長(以下、綱場):ノバルティスでは、2002年からグローバルにダイバーシティ推進に取り組んできましたが、日本でもこの2年間でさらにD&Iを経営の中心的戦略と位置付けて加速させています。

 当社は研究開発型の製薬企業ですので、イノベーションを積極的に推進しています。ダイバーシティを醸成することによりイノベーションが生まれることは多くのリサーチでも証明されており、異なるスキルや経験などを持った多様なバックグラウンドの人材が共鳴することで、斬新なアイデアが生まれると考えています。我々は研究開発の分野だけではなく、広くコマーシャルや製造などの分野でもダイバーシティを推進することで、イノベーションを生み出せると考えています。

 私自身も比較的若くしてこの仕事に就きましたし、職位や年齢に対しての偏見はないつもりです。2018年2月にはヴァサント・ナラシンハンが41歳という若さでグローバルのノバルティスグループのCEOとして着任しました。世界の大手製薬企業の中で最年少のCEOで、かつFORTUNE500で最も若いCEOの一人でもあります。彼がノバルティス社内で推進している企業文化改革の一つに「アンボスリーダーシップ(UNBOSSED)」があります。この考え方は私も含めて当社の多くの社員から共感を得ており、日本でもアンボスリーダーシップを企業文化の中心に据えて積極的に推進しています。

ノバルティスファーマ代表取締役社長 綱場一成
1994年東京大学経済学部卒業。2001年米国デューク大学MBA取得。米国イーライリリーにてセールス、マーケティング部で要職、同社日本法人糖尿病領域事業本部長や香港、オーストラリア、ニュージーランド法人社長を歴任後、2017年4月、現職に就任。

――アンボスリーダーシップについてご説明いただけますか。

綱場:アンボスとは、直訳すると“ボス(上司)を取り除く”という意味の造語で、「上司と部下の垣根や不必要なプロセスを可能な限り取り去り、社員自らが主体性を持って、モチベーション高く働ける組織を作っていくリーダーシップ」の考え方です。上司が部下に奉仕する「サーバントリーダーシップ」と違って、アンボスリーダーシップでは上司も部下も自ら責任と主体性を持って行動することが求められます。

 今、ノバルティスは全世界をあげて「カルチュラルトランスフォーメーション(企業文化の変革)」を推進しています。多くの会社が企業文化の重要性を訴えますが、全社一丸となって企業文化の変革を実現した例は多くはありません。我々はこの壮大な社会実験とも言える改革に現在取り組んでいるところです。

 我々がこの2年半で最も力を入れていることが、革新的な医薬品の提供を可能にするための企業文化の醸成です。そのための重要な要素は、会社が変わってきているという感覚を社員全員が感じることです。日本企業にはいまだに年功序列の色合いが強く残っており、職位や年齢が、組織の運営に大きく影響します。一方でトップダウンのカルチャーは社員の主体性を阻害し、イノベーションを生み出しにくい風土を醸成する危険があります。

 そこで当社では、社員により多くの権限を委譲し、責任を明確化することでできるだけ階層を取り壊していく、社員は職位や部門間の垣根を越えて主体的に協働する、そういったカルチャーを作ろうとしています。自ら考えて行動する社員が増え、新しい発想がどんどん出てくることを期待していますし、リーダーはそうした社員の発想ややる気を存分に引き出して、障害があればそれを取り除く、つまりはアンボスリーダーシップの推進です。D&Iへの取り組みもそこに紐づけられます。