芸術が、組織のチームビルディングに使われている。

 大阪府堺市にある耳原総合病院では、奥村伸二院長の主導によりホスピタルアートを導入している。2013年にホスピタルアートを展開し始めた同病院は、今ではアートディレクターを含めて4人のアート専門職を起用し、絵画、写真、造形、音楽、舞台芸術など様々な取り組みを進めている。その規模は日本国内の医療機関ではトップクラスで、見学者が後を絶たないという。

 欧米では、アート作品や音楽などが院内環境を改善する効果があるとして注目を集めている。また英国では、音楽療法によって認知症患者の興奮を鎮めた結果、薬物投与を削減できたという調査報告もある(英The Culture, Health and Wellbeing Allianceの報告書『Creative Health: the Arts for Health And Wellbeing July 2017』より)。

 耳原総合病院のホスピタルアートの特徴はいくつかあるが、注目すべきポイントの一つが「参加型」のプロジェクトを多数推進していることである。院内に用意するアート作品の企画・制作に当たって、病院の職員が積極的に参加。これにより職場の一体感の確保、また職員のモチベーションの維持・向上が見られているようだ。

職員、患者、地域住民を巻き込んだアート制作

 耳原総合病院における参加型のアート作品制作プロジェクトは、どのように「参加型」であるのか。もう少し見ていこう。

 例えば、「絵本の扉を開くワークショップ」というプロジェクトがその代表例だ。院内の1階から14階にあるエレベーターホールそれぞれに、小鳥と樹木を題材にしたアート作品を描くというものである。

「絵本の扉を開くワークショップ」(2014年)の様子。職員、患者、地域住民が参加し、どんなアート作品にしたいかを話し合った(写真提供:耳原総合病院)

 耳原総合病院が2015年に竣工した新病棟の外壁には、小鳥と樹木を題材にした絵柄が描かれている。職員から「外壁を絵本の表紙に見立て、病院の中に物語を描いてはどうか」というアイデアが持ちかけられ、それに基づいてこのアート制作プロジェクトが立ち上がった。

 ワークショップには職員だけでなく患者や地域住民も参加。延べ300人ほどが加わった。これほどの規模感で展開された参加型のホスピタルアートは例を見ないという。

 具体的にはどんな進め方をしたのか。ワークショップでは「どんな絵を描きたいか」というテーマを設定し、グループに分かれて意見を出し合った。例えば産婦人科の職員からは「産婦人科に来る患者は、子供を産む人ばかりではない。産めない人もいるし、ガンが見つかる人もいる。コウノトリや動物がたくさん描かれているイメージではない」という意見が出た。そこで、産婦人科のフロアにおけるアート作品については「カラシダネの小さい種が育ち、鳥も止まれるような大きな樹木に育っていく」というメインメッセージを据えることにした。