――地方にも雇用が生まれそうですね。

三浦氏:はい。特に地方自治体の方々からは、地元農業の効率化はもちろん、雇用の創出という角度からも収穫ロボットに興味を持っていただいています。

 私は収穫ロボットのようなテクノロジーが普及することで、これまで第三次産業に流れていた若い人がもっと第一次産業にやってくるようになると思っています。

 農業が担う食料生産は人間の生命維持や健康に直接関わる活動ですから、もっと重視されていて良いはずです。これまで第一次産業は労働集約的であることから、労働条件や職業イメージに影響されて、第三次産業に若い人材が流れがちでした。

 けれどもテクノロジーで農業の新しい働き方や、農業の新しい可能性が認知されれば、従来のイメージが払拭され、より多くの若者がやってくるはずです。そうなると農業の後継者不足も解消されていくと見ています。

森羅万象にマシンを適用する――生身の働き手に待ち構えている仕事

 inaho三浦氏の話から、どんな感想を抱いただろうか。

 米リサーチ会社のガートナーが2017年12月に公表した予測データによれば、AIによって失われる雇用が2020年時点で180万人ある一方、230万人分の雇用が創出される。

 AIやロボットなどのマシンは、生身の人間を圧倒する処理性能を備えている。だが少なくとも現状、マシンは融通がきかない存在である。だからこそ雇用が創出される。

 AIの世界では「フレーム問題」として議論されているが、現状、AIやロボットなどのマシンはその原理上、人間が定義した世界(フレーム)における問題しか解決できない。つまり、森羅万象の現実世界において、想定外の事象に対して反応し、判断し、対処するといった行動は、人間の得意分野だ。

 農業のような自然環境、生命を相手にした業務であれば、なおさら想定外の事象が発生しやすい。まさにinahoのアグリコミュニケーターの仕事像で語られたような、マシンを現場でうまく適用するための業務が数多く待ち受けている。

 「将来、高性能なマシンが登場して人間と同様に柔軟な仕事が可能になる」という説もある。だが、「将来」がいつなのかは、今のところ見当がつかない。

 企業経営とデジタル技術の関係について長く取材し続けている日経BP総研の谷島宣之上席研究員は、「AI失業はない」という記事で次のように指摘する。「複数の仕事をこなせる汎用のAIがさらに発展し、責任を意識できるようになり、ついには人間を超える日が来るという話にいたっては陳腐な空想科学小説であり、心配するのは時間の無駄である」

 マシンがもつ、人間よりも優れた側面と、そうでない側面。我々生身の働き手には、マシンの特性を理解して森羅万象に適用するための仕事がたくさん待ち構えていそうだ。

高下 義弘(たかした・よしひろ) 日経BP総研 客員研究員
高下 義弘

フリーランス記者/編集者。大学院修了後、1998年に日経BP社に入社。日経コンピュータ、ITpro(現・日経 xTECH)編集記者を経てフリーランスに。一貫して企業経営とテクノロジーについて執筆。2018年より11月現職。『人と仕事の未来2019-2028』(日経BP総研、2018)などを執筆。

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。