全日空(ANA)グループのANAエアポートサービスが、より働きやすい職場をつくるために、様々な改革を進めている。ANAエアポートサービスはANAホールディングスの子会社で、羽田空港における空港サービス全般を手がけている。

 その一つが、「働き方イノベーション」と称した打ち手である。臨床心理学とメンタルヘルスの知見を生かして職場を活性化させようとするプロジェクトで、東京大学大学院下山研究室(教育学研究科臨床心理学コース・下山晴彦主任教授)との共同研究として進める。2019年4月から本格スタートさせた。

 プロジェクトの主な対象は、同社の旅客サービス部に所属し、空港での接客サービスを担う約2100人のグランドスタッフである。このプロジェクトの最大の特徴は、大きく2点ある。1点は、社内に公認心理師を配置したこと。ANAエアポートサービスが心理職の常勤社員を雇用したのはこれが初めてという。

 もう1点の特徴は、臨床心理学やメンタルヘルスの知見を予防的に活用し、かつ組織マネジメントにも踏み込むこと。「メンタルが不調になったから対策する」のではなく、「社員が心身の健康を維持し、より活性化するのをサポートする職場をつくる」というコンセプトを掲げた。これが働き方イノベーションと銘打つ理由である。

 具体的には、どのように進めていこうとしているのか。共同プロジェクトの中身を概括しながら見ていこう。

心理学の知見をグランドスタッフの現場に適用

 共同研究の柱は大きく4つある。(1)社員が生き生きと働くための支援方法についての調査研究 (2)心理学やメンタルヘルスの知見を社員に提供する研修会の実施 (3)デジタル技術の活用 (4)公認心理師の配置による新たな職場の在り方の創出 だ。

 まずは1つ目の(1)調査研究について。東京大学下山研究室側で組成した臨床心理学チームと協力し、職場の課題解決、そして社員が生き生きと働くための支援方法を見いだしていく。

 推進中の研究テーマは複数ある。なかでも「社員の睡眠習慣への適応促進」はグランドスタッフならではのテーマと言える。

 グランドスタッフはシフト勤務がメインの職場で、早番の場合は朝5時にスタート、遅番は職場により変わるが深夜2時前後に終わる。睡眠サイクルの乱れはメンタルの不調を引き起こしやすく、調査研究を通じて不規則な睡眠習慣への適応方法を見いだし、一人ひとりのグランドスタッフへの教育・啓発を促していく。個々人に合った睡眠の傾向を見いだすために、生体データを取得できるデジタル機器の活用も検討していくという。

 「レジリエンスの育成」というテーマもある。こちらはストレスフルな状況下でも職業人として成長し続けられる職場環境づくりのヒントを探るというものである。

 グランドスタッフは旅客に対応するなか、クレームや叱責を受けることも少なくない。そこで、メンタルのバランスを保ちやすくするマインドセットやチームの在り方を見いだしていく。例えばクレーム発生時にベテランがどう捉えて対処しているのかを調査・抽出し、若手がそれを日々の業務場面で応用できるよう共有する、といったことを検討しているという。

 共同研究の2つ目の柱、(2)心理学やメンタルヘルスの知見を社員に提供する研修会の実施とは、社員の悩みに対応した内容の研修会を企画し開催する。現場に事前調査した結果を踏まえて、まずは社員間のコミュニケーション、チームワークの活性化、セルフマネジメント力の向上などをテーマに据えて実施していく。先駆けてこの年度初期には、現場のグランドスタッフを束ねるリーダー層(チームコーディネーターと呼ぶ)に向けた研修会を開催済みという。