(3)デジタル技術の活用では、グランドスタッフに業務用に配布されているiPadを活用する。社員が自分の心身の健康状態をセルフチェックしたり、必要に応じて外部の心理カウンセラーに相談できる機能を備えたアプリを配布し、グランドスタッフ一人ひとりの状態に応じたきめ細かな対応の方法を探っていく。

 アプリは東京大学下山研究室が開発したメンタルヘルス支援アプリ「ココロ・ストレッチ」を利用する予定だ。約2100人いるグランドスタッフを一人の公認心理師だけでカバーするのは現実的ではないため、デジタル技術の活用で補完しようというのが狙いだ。今後の利用状況を踏まえて、アプリのカスタマイズも検討する。

 最後の(4)公認心理師の配置は、以上の(1)から(3)のベースとなる取り組みである。ANAエアポートサービスが社員として雇用した公認心理師は、いわば「個人と組織をつなぐ役割」だ。現場のグランドスタッフが何を考え、何に悩んでいるのかといった情報を集約し、専門的な知見も交えて参考情報としてマネジャー層に伝達。これにより、マネジャー層が的確な現場マネジメントを行えるようにサポートする。

 公認心理師であれば、現場の社員同士では言いづらいことを打ち明けられる可能性が高い。加えて、その公認心理師が同じ社員であれば、社内の事情に通じており、適度な親近感を抱かれやすい。これにより、ANAエアポートサービス内の適切な情報流通を促す。

 東京大学大学院の下山教授はかねてより「対話型の組織」というコンセプトを提唱している。対話型の組織とは、社員の声や社員が感じている問題の情報が社内で適切に流通し、現場とマネジメント層が一体的に問題解決に取り組める組織形態のこと。この(4)の施策は、対話型の組織を具現化するためのカギとなる仕組みと言える。

 ただ、公認心理師だけでは、現場の体制変更や改善・変革について実効力のある案をプランニングするのは難しい。そこでこのプロジェクト全体においてはANAエアポートサービスの課やグループといった組織を「サポート資源」と位置づけ、その資源を活用しながら進めていく。

 公認心理師は社内外のネットワーキングも司る。ANAエアポートサービスと東京大学下山研究室との間を取り持ち、相互に必要な情報を整理しながら伝達する。これにより、ANAエアポートサービスは専門的な知見を現場で活用しやすくし、東京大学下山研究室側は効果的な知見を提供しやすくする。

 外部の支援機関との連絡・相談役も果たす。例えば特定の社員に対してメンタルヘルスの面でより本格的な支援が必要と判断した場合、公認心理師は東京大学下山研究室の臨床心理学チームと連携を取りながら、外部の医療機関などに引き継いでいく。

 公認心理師である大井葉月氏(ANAエアポートサービス旅客サービス部国際業務課公認心理師・相談員)は、メーカー勤務を経験後に東京大学大学院に入学。下山研究室で学びながら公認心理師の資格を取得し、2019年4月にANAエアポートサービスに入社した。なお公認心理師は2015年に成立した公認心理師法により設定された心理分野の国家資格で、2018年秋に初めての試験が実施された。

グランドスタッフの現場課題を解決

 「当社としてはもちろん、お客様が第一。だが、お客様に接する社員が元気でなければ、良いサービスは提供できない。社員が元気になれば、それはお客様にも伝わる。この考え方が、一連の取り組みのベースにある」。ANAの久沢弘太郎東京空港支店部長兼ANAエアサポートサービス旅客サービス部長はこう語る。

プロジェクトの推進メンバー。写真中央右(右から3人目)が、公認心理師の大井葉月氏(ANAエアポートサービス旅客サービス部国際業務課公認心理師・相談員)、以下右から久沢弘太郎氏(ANA東京空港支店部長兼ANAエアサポートサービス旅客サービス部長)、篠田枝里香氏(ANAエアポートサービス旅客サービス部国際業務課)、麻田理恵氏(同・旅客サービス部国内業務課)、堀麻衣子氏(同・旅客サービス部国内業務課)、大曲哲雄氏(同・旅客サービス部国内業務課リーダー)