ANAエアポートサービスはANAグループで羽田空港の地上オペレーション全般を担っている。その羽田空港は、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年に向けて空港機能の拡大が進められている。国際線の発着便回数は2015年の約6万回から2020年には約9.9万回に増加する見込みで、ANAエアポートサービスでは社員の採用数を増やしてこれに対応しようとしている。グランドスタッフは2020年には2400人規模にする意向という。

 ANAエアポートサービスは新卒学生の就職希望先として人気が高い。「日経新聞×マイナビ 就職企業人気ランキング2020」の文系女子部門では16位にランクインしている。いわゆる本体企業ではない子会社が20位以内にランクインするケースは珍しい。

 しかし、「その人気度や入社前のモチベーションの高さゆえに、実際の業務とのギャップに悩む社員も少なくない」(久沢部長)という。また最近はグランドスタッフの中に、乳幼児を持つ社員、シニア社員、外国籍の社員も増えつつある。

 このため、特に現場リーダー層は、複雑性の高い職場をどうマネジメントするかというテーマも抱えながら働いているという。「様々な要因が交わる中で、以前とは異なる形の負担感がグランドスタッフにかかるようになった。総じて、現場もマネジメント側も仕事の難易度が増している。社員の離職率を減らし、健康的にしかも楽しく働き続けてもらえるかということが、課題として改めて浮かび上がっていた」(久沢部長)。

 そうした中で着手し始めたのが、職場づくりのための改善活動である。「ANAAS 2019アクションプラン」と名付け、現場リーダーの人数を増やして社員個々人に目が行き届きやすくする、社員同士の交流を促すレクリエーションを企画する、職場改善の取り組みやスキルの高い社員を表彰する制度「Haneda's Pride」を推進する、といったことを推進してきた。

 今回の「働き方イノベーション」は、これら一連の活動に重ねたさらなる打ち手という位置づけだ。

短い間にも得られた手応え

 ANAエアポートサービスでは公認心理師の大井氏によるグランドスタッフ向けの心理カウンセリングを順次実施していく予定。ただし、具体的な方法や開始時期については6月現在、検討中という。「2100人ものグランドスタッフに対して公認心理師が大井1人しかおらず、ICTの援用も含めて、どんな対応体制を敷くのがベストなのかを模索している」(久沢部長)ためである。

 しかしそれに先立つ形で、様々な活動を展開中だ。現場リーダー向けの研修プログラム内に、東京大学の下山教授と大井氏によるワークショップや講義を盛り込んだ。

 これまでもANAエアポートサービスではリーダー向けのマネジメント研修を実施してきたが、あくまで「我々なりの経験に基づく内容」(久沢部長)だった。今回は東京大学の下山教授と公認心理師の大井氏によって、心理学的な知見に基づく内容にブラッシュアップした。久沢部長は「プロジェクト全体の評価を下すのには時期尚早だが、少なくとも研修を受講したグランドスタッフたちの反響は非常に良く、手応えを感じた」と語る。

 「今回の共同プロジェクトが始まり、プロジェクトの存在を知る社員が増えた結果、現場の雰囲気が変わってきた」と口をそろえるのは、ANAエアポートサービス旅客サービス部国内業務課の堀麻衣子氏と、旅客サービス部国際業務課の篠田枝里香氏。ANAAS 2019アクションプランおよび共同研究プロジェクトのグランドスタッフ側メンバーで、2人ともグランドスタッフとしての業務経験を持ち、現場のサポート業務を担当している。

 「いわゆる『黄色信号』の段階で気軽に相談できる公認心理師を会社が雇用した。そして会社がその重要性を新卒向けの就職説明会も含めて、積極的に告知し始めている。これは現場のグランドスタッフにとって心強いはず。『会社はちゃんと自分のことを見てくれている』という実感があれば、やはり働くうえでの安心感が高まる」(堀氏)。

 同じくグランドスタッフ側のプロジェクトメンバーである麻田理恵氏(ANAエアポートサービス・旅客サービス部国内業務課)は、「Z世代と言われるような新しい世代の人たちは特に、企業側が続けてきた伝統的・慣習的な人材育成策に対して、良い意味で疑問を持っているはず」と見る。「空港旅客サービスという業務は一見華やかだが、泥臭い面もある複雑な業務。これが東大との共同研究を通じて、学術的な視点で課題が整理されつつある。ベテランはもちろん、若手も納得して働ける職場づくりのヒントが得られる可能性がある」(麻田氏)。

 久沢部長と共に共同研究プロジェクトの立ち上げに携わったANAエアポートサービスの大曲哲雄氏(旅客サービス部国内業務課リーダー)は、「正直なところ、どんな施策が社員に響くかというのはまだ分からない。しかしそれでもチャレンジが必要」と語る。「公認心理師の大井はすでに一緒に取り組む仲間。下山教授のご協力を得ながら、社員のために、考えうる打ち手をどんどん出していく」(大曲氏)。