デザイナー向けのコンテンツには、画像処理ソフトなどの使い方に加えて、デジタル分野に必要な独自のデザインノウハウを盛り込んだ。PCやスマホの画面に掲載するネット広告の場合は、紙のポスターや雑誌とは違って掲載領域が狭いためだ。

 ディレクター向けの教育コンテンツも同様に、デジタル広告に求められる制作ディレクションの知識を盛り込んだ。顧客層の考え方、広告指標の分析手法といったデジタルマーケティングの基礎知識はもちろん、広告ターゲットに合わせたコピーライティングの手法、クライアントへのコンサルティングや折衝の手法、生産性やコストのコントロール手法など、現場の事情に即した実践的な内容も学ぶことができる。

 ここで注目すべきは、生産性やコストのコントロール手法も研修で学べる点だ。

 デジタル分野のクリエイティブは検討要素が多く、広告効果の測定結果に応じてリアルタイムで制作物をアップデートしていく必要がある。顧客層ごとに個別の制作物を用意することもある。必然的に、クリエイティブ全体の作業量が増え、現場の負担が増える。そのような中、クリエイティブの品質を維持・向上させつつも、コスト面でも見合うプロジェクトの進め方が浸透するようにしたわけだ。このようなノウハウは、現場のOJTなどを通じて「口伝」で教えることが多く、体系的に整理し教えている企業は珍しい。

システムの整備でクリエイティブ業務の効率向上

 生産性アップに貢献した要素は、教育研修・育成のほかにもう一つある。クリエイターの業務を支える情報システムの整備だ。自社で業務のワークフローシステムやナレッジマネジメント・システムを開発した。これらのシステムで、プロジェクトの進捗状況、広告に対する反応率などのデータ、広告制作のための各種の中間成果物を共有できるようにし、業務全体の効率アップ、そしてページビューやコンバージョン率の向上といった広告効果の追求を図っている。

 効果の高いネット広告の源泉となるのは、人間が自らひねり出すアイデアである。ただ、それに加えて「まずは広告を出してみて、顧客の反応を見る」という姿勢も併せて重要になるという。デジタル技術の上に成り立つネット広告では、広告を見たユーザーがどの程度クリックしたのか、実際に購入に結びついたのかといった広告効果を数字としてリアルタイムに、かつダイレクトに確認できるためだ。

 データを見ながら、キャッチコピーやデザインを機敏に改変し、仮説検証のサイクルを回しながら広告効果をじわじわ高めていく。場合によってはターゲットとする顧客層も変え、起点となる広告訴求の方向性から考え直すこともする。

 「この仮説検証サイクルの重みは、従来の紙媒体の広告やテレビCMよりもずっと大きい」と語るのは、オプトにおいてネット広告のクリエイティブ業務を管掌する執行役員の橋本祐生氏である。

 「時間をかけて一つひとつのクリエイティブの品質を追求する『一球入魂』型の姿勢も大事だが、データを見ながらクリエイティブの品質を継続的に高める仮説検証型のアプローチが重要になる」(橋本氏)。

 こうした仮説検証型のクリエイティブ業務に欠かせないのが、各種の広告案と、それがどのような広告効果を出したかという“データのセット(組)”だ。ディレクターチームの長である伊藤弘明氏(ダイレクトクリエイティブパフォーマンス部部長)は、「システムでこれらのデータを共有できるようにすることで、関係者同士の意思疎通がしやすくなった。これがクリエイティブ業務の効率アップに役立っている」と語る。

 ワークフローシステムを開発するにあたっては、各人でバラバラだった業務の流れを社内で統一し標準化した。情報を共有するナレッジマネジメント・システムと相まって、「プロジェクトを別のメンバーに引き継ぐ作業や、突発的に業務負荷が上がった際のメンバー増員にも対応しやすくなった」(デザイナーチームを率いる田渕温子ダイレクトデザインプランニング1部部長)という。

 ナレッジ・マネジメントシステムには過去の成功事例、そして失敗事例も含めて蓄積して「クリエイティブのノウハウを形式知化」(橋本氏)してある。橋本氏は「クリエイティブの世界は、『これをやれば必ず成功する』というのは存在しない。そのような100%確実な必勝法がない世界ではあるが、こうした基盤を用意すれば、クリエイターたちが“プラスアルファ”のクリエイティブを生み出しやすくなる。結果として成功確率を高めることにつながる」と説明する。