社員教育、特に次世代を担う20代から30代前半の若手社員の教育は、企業組織にとって重要な活動の一つ。とはいえ、どんなやり方が望ましいか、いつでも悩ましいのは言うまでもない。

 そこで、有効性のありそうなアイデアを示しているのが、インクルーシブデザイン・ソリューションズ社長の井坂智博氏である。井坂氏はリクルートなどを経て2012年にインクルーシブデザイン・ソリューションズを創業。身体障害者、高齢者を巻き込んだ商品・サービス開発のコンサルティングを手がけている。

 同社が提供する手法は「インクルーシブデザイン・ワークショップ」と呼ぶ。英国ケンブリッジ大学発の手法である「インクルーシブデザイン」に、米スタンフォード大学の「デザイン思考」のプロセスを取り入れて日本流にアレンジしたものだ。同社が提供している無料体験会にはすでに約2万4000人、約280社の企業が参加したという。

 この手法を実践している企業の代表例が花王だ。花王は2014年頃から現場主導でインクルーシブデザイン・ワークショップを実践しており、2019年4月に発売された花王の「アタックZERO」のパッケージデザインにも、こちらの手法が一部適用されている。

 インクルーシブデザインは教育研修にも有効だという。「この手法に繰り返し取り組むことで、若手ビジネスパーソンにとって不可欠な『チームで協力しながら自分なりの解を編みだす能力』が鍛えられる」と井坂氏は語る。

 インクルーシブデザインの手法自体、身体障害者が健常者と手を取り合って活躍できる可能性を示している点で、興味深い。しかも教育にも効果を発揮するというのは、どのようなことか。井坂氏に聞いた。

「固定概念がひっくり返された」

――商品開発などに適用するインクルーシブデザイン・ワークショップそのものが、社員教育として使えるとおっしゃっています。例えばどんな具合に使えるのでしょうか。

井坂氏(以下、敬称略):インクルーシブデザイン・ワークショップの特徴は、障害者や高齢者といった「リードユーザ」とともに、現場における問題発見から試作品の開発、検証に至るまで実行するところにあります。リードユーザと呼んでいる理由は、障害者や高齢者といった身体的な制約を持っている人たちを観察し、話を聞くことで、きたる超高齢社会における社会課題を見出すことができるためです。つまり、「時代を先取りしている」という意味で「リード」と名付けているわけです。

 私たちがインクルーシブデザイン・ワークショップを展開するために契約しているリードユーザは、前向きな心持ちの方々ばかりです。後天的な理由で身体的な制約を持つと、人はどうしても考え方が後ろ向きになりがちです。しかしリードユーザは実生活の不便を逆手に取って楽しんでいます。

 また、身体的な制約をカバーするために養われた、人一倍優れた能力を備えていることもあります。例えば1.5倍から2倍速くらいの音声再生を正確に聞き取れるリードユーザがいます。また別のあるリードユーザは、嗅覚が優れているため海外の高級ファッションブランドの香りづくりを手伝っています。そうした姿に触れた健常者のビジネスパーソンは、「固定概念がひっくり返された」などとおっしゃいます。

インクルーシブデザイン・ワークショップの様子。リードユーザと共に町に出て課題を見出す(写真提供:インクルーシブデザイン・ソリューションズ)