子育てとの両立

 制度が整い、働き方の多様化で、育児などを事由に退職を余儀なくされることは少なくなりました。事実、“M字カーブ”と呼ばれた30~40代女性の就業率低下は解消しつつあります。

 一方で副業解禁、短時間就業を前提とした派遣会社の台頭や、クラウドソーシングのプラットフォームを活用しフリーランスとして活躍するなど、働き方が多様化する過程で、今所属している企業で就業し続けることは、社員にとってさほど重要ではなくなっています。自社において育児をしながら働き続けるイメージが持てなければ、より環境が整備されている会社に転職することや、就業形態を変えることが容易にできてしまうのです。

 企業としても人手不足の昨今、新規採用のリスクは増大しています。売り手市場が加速すれば自社にとって優秀と思える人財に出会える可能性は下がります。せっかく優秀と思ってコストをかけて採用してもミスマッチなどで簡単に離職されてしまってはたまったものではありません。

 そこで「育児をしながらでも、働き続けられる」という文化作りのため、事例を展開して安心感を醸成しようとする企業が増えています。しかし、ここで一つの落とし穴があります。この分野でよくいわれる「ロールモデル」という言葉。会社が理想と考える働き方をしている社員を会社側が選定し、「この人の事例を参考にして働いてください」というようなメッセージを配信すると、ほぼ確実に拒否反応が出てしまうということです。

 育児をしながら働き続けたいと考える人にとって、自身の置かれた環境や働くことに対する価値観と大幅にずれた方をロールモデルとして紹介されても、受け入れることができません。むしろその人と自分の違いにフォーカスしてしまい、「○○さんは、職場環境が整っていて、上司は理解があって、両親が近くにいて……」などと、違う部分にばかりフォーカスが当たってしまい、せっかく参考にできる部分があったとしても取り入れてもらえないでしょう。

 そこで、会社として紹介する“ロールモデル候補”は多様な働き方、多様な価値観の方を複数人紹介し、その中から自身の環境や置かれた立場に近い方を自ら選んでもらうというスタイルを取る企業が増えています。紹介できる人が社内に多くいないという場合であれば、“社外”の事例を活用するケースもあります。自社内の数少ない事例を押し付けるよりも、社外も含めた多様なロールモデル候補に触れた方が、受け入れてもらえる確率が高まるからです。

 人事施策はそれを受け取る社員の気持ちを抜きに考えられるものではありません。情報一つとっても受け取る側がどういう反応を示すかを考えなければ有効な施策は展開できないということです。

柔軟な働き方

 働き方や就業形態の自由度が高まっている今、企業にしがみついてまで残る必要はなくなりました。この事実は企業側の人に対する考え方にも変化をもたらしています。これまでは、「人が辞めないように対策を講じる」という考え方が一般的でしたが、辞めることを許容して、また戻ってきてもらうことも視野に入れて関係性を続けるという考え方への変化です。