患者も会社も産業医も分からない、実は主治医も分からない

 そして、この「社員を働かせて、本当に大丈夫なのか」という疑問に答えるのは、そう簡単なことではありません。

 というのも、体調が回復していても、休職前と同じように働けるかどうかは、当の患者自身でさえ分かっていないのですから。もちろん、会社も産業医もそうでしょう。そして、実は主治医も同じです。

 主治医も「実際に職場に戻してみなければ分からない」というのが本当のところなのです。

 それはなぜか。会社に戻るということは、社会に戻るということです。復職後に待っているのは業務だけではありません。職場や取引先などの人間関係もあります。

 そうした環境変化の中で受ける心身への負荷やストレスは、会社によって職場によって、その質も、量も個々に違います。復職した社員が、そこで周囲の人の助けを借りながらでも、自分で体調を管理して働き続けていくことができるのか。それは、患者本人にも、主治医にも、会社にも分かりません。

 その一方で、うつは慢性化しやすく、再発しやすい病気です。うつによる休職からの復職は、そうした状況の中で判断しなければならない作業なのです。

入院するほど重症ではないが再発しやすい

 私は2003年に東京・虎ノ門に精神科クリニックを開業してから、うつ状態で来院する多くの会社員を診てきました。いずれも入院するほど重症ではなく、病状としては通院による治療が可能な、軽度の患者が多かった。それは今も同じです。

 当時、休職して業務上でのストレスから解放され、服薬による治療を行って体調が回復した彼らに、私は「復職可能」という診断書を書いて復職させていました。

 ところが、そうした患者の多くが、次々と再休職してクリニックに戻ってきてしまう。病状が軽いからといって治りやすいわけではなかったのです。「えっ、この患者も? 一体どうして?」と、当時、私は医師としての自信を失いかけていました。

 体調が回復してきても、それが業務に耐えられるほどなのかどうか、診察室で患者と1対1での短いやりとりの診察だけでは、到底分かりません。では、どうしたらいいか?

診察室だけでは分からないことが見える「リワークプログラム」

 その「分からない」を埋めるために考え出したのが「リワークプログラム」です。患者に通勤のようにクリニックでのデイケアに通ってもらい、そこで模擬職場を作り、役割を与えて何らかの作業をしてもらって対人関係をみる。そうすれば、職場に復帰させてもいい時期が、もっと的確に分かるのではないかと考えました。

 同時に、ここでは復職後に再発させずに働き続けるスキルを身に付けることができるので、職場復帰前のリハビリのプログラムでもあります。

 本当の職場に戻る前に、疑似的に通勤や仕事、職場で生じる人間関係のストレスなどを体験しながら、患者さんは

①病気について学び、
②なぜ自分がうつになったのかという自分の原因を探る
③そして自分の物事のとらえ方のクセを知って、
④自分自身をケアする方法を学び、
⑤トラブルに陥っても自分で立ち直るためのノウハウを身に付ける
⑥そうして、自分が学んだことを生かせるか、集団の中での実践を通
してストレス場面での対象方法を身に付ける

 プログラムにはこうした狙いに沿った内容が組み込まれており、これが、復職後のうつの再発を予防することにつながっています。

 リワークプログラムの目的は、単に職場復帰することではなく、職場に戻ってから再発せずにずっと働き続けられるスキルをしっかり身に付けてもらうことなのです。