日本の企業経営が激しい環境変化の波にさらされるなか、成長戦略の鍵を握るのが人材マネジメントだ。これからは経営の視点による人事戦略が必要になる。ボードメンバーとして人事を統括する権限を持つCHO/CHRO(最高人事責任者)という役割も注目されつつある。この連載では、企業の成長を促す人材マネジメントの事例を紹介していく。第1回は、2013年に「KDDIフィロソフィ」を改訂し、社員力強化に注力してきたKDDIの人材マネジメントをリポートする。同社の人事トップとして「自ら率先して変化を起こす人事」を推進してきた、コーポレート統括本部人事本部長の白岩徹氏に話を聞いた。

――CHO、CHRO(最高人事責任者)という言葉が聞かれるようになりました。経営視点での人事について、どのようにお考えですか。

白岩 徹(以下、白岩):当社はCHO、CHROという呼称はありませんが、人事の最高責任者とは組織にとって重要なポストであり、責任を持って取り組まないといけないと考えています。

 人事は、企業のすべての社員に相対する部門であると思います。企業が持続的な成長をしていくための一番のリソースは社員です。「企業は人なり」と言われるように、企業のリソースの根幹である社員がいかにエンゲージメントを上げ能力を発揮できるかによって、企業の最終的なアウトプットやパフォーマンスが変わってきます。

 事業の目的は様々ですが、取り組む人を活性化させることが、経営そのものだと考えます。社長が全社の最終責任者ならば、社員を生かしていくことが人事担当の私の役割だと思っています。

KDDI理事 コーポレート統括本部人事本部長 白岩徹氏
1991年第二電電株式会社(DDI、現KDDI)に入社。営業、カスタマーサービス部門を経て、コーポレート統括本部 総務・人事本部 人事部長、副本部長などを経て2019年から現職。(撮影:菊池くらげ)

白岩:これまでの人事に求められる役割は、給与計算、評価など決められたことを100%ミスなく進め、企業の文化を守ることでした。ある意味、保守的で「守りの人事」です。これからは「攻めの人事」であるべきで、人事制度が社員の行動や評価を縛っているのなら、その文化を変え、社員の自律を促すことが必要になります。企業を変革させることのできるポストだと思います。

 例えば今までは、部署の目標はトップダウンで決めていました。これからは個々の社員が思い描く目標、持っている経験、知識やスキルを把握し、彼らが何の仕事に適しているか、どんなパフォーマンスが出せるか、将来この会社で何をやりたいかというキャリアプランを確認するプロセスを持ちたいと考えています。これにより、「上から押し付ける目標」ではなく「現場で自ら出てくる目標」になっていくと思います。

――社員のスキルや適性を個別に確認していくのは、大変な作業だと思います。

白岩:大変ですが、個々に聞かないといけません。方法はいろいろあります。10年後に会社を担う若手社員に向けてやろうとしているのは、個別インタビューやアンケートのほか、社内の勉強会や講演会です。例えば資料作成やプレゼンなどのスキル、新技術などを外で学習するのではなく、社内で経験や知識を持つベテラン社員に講演してもらう。こうした勉強会を上から押し付けるのではなく、社員自ら挙手して参加してもらう場や機会を作っていきたいと考えています。

 こうして社員に接していくことで、堅苦しい面談をしなくても、各自が何を学びたいかを知り、やる気のある社員を発掘することにつながります。一方社員にとっては、会社が提供した学びの機会を生かし、スキルを身に付け、自分のキャリア形成をしていけることとなります。

――社内のナレッジを掘り起こし、共有できるわけですね。ベテラン社員が講演することはシニア活用にもつながります。

白岩:社内知を掛け算のように増やしていく機会を、人事が作っていくということです。シニアも若手も、モチベーションやエンゲージメントの向上が期待でき、Win-Winの関係になります。こうして個を生かしパフォーマンスを上げることが、結果的には組織を強くし、競争力強化にもつながります。