社員の「自律」を促す機会を増やす

白岩:今の若手社員は、スキルアップや情報収集の機会を強く求めています。「副業をやりたい」と言う人もかなり多いようです。現在の業務をしながら外の世界も知り、自分のスキルを上げていきたいと考えています。こうした流れを、一概に否定するわけにはいきません。彼らのやりたいことと仕事をマッチングさせるためにも、早い段階で若手の意識調査を行おうと思っています。

 副業をどのように認めていくかは、難しい問題です。当社は働き方改革にも力を入れているので、自社だけでなく外で働いた時間にも責任を持つ必要があります。こうしたことをオープンにしていく方向性は避けられません。副業をしたい若手には認めて、それによって自分のスキルを知ってもらえばよいと思います。

 従来のように、一つの会社で最後まで勤め上げる時代は終わりました。今の若年層には、「福利厚生の整った企業で定年まで働く」という安定志向は減ってきています。自分の能力を若いうちに高め、もし最初に入社した会社以外でそれを生かす機会があれば転職したい、と考える人も多いでしょう。

――それによって他社への流出があるかもしれませんが。

白岩:人材の流動化は避けられないでしょう。しかし今の時代は、社員の定着だけを目指すのは違うと思うのです。10年前の「守りの人事」なら、離職率の低さが評価され「よい会社の指標」と思われていました。しかし時代は変わってきています。社員が自己の能力を高めていきながら、外の世界で活躍したいなら、それを止めることはできません。

 それに、流出があれば流入もあるでしょう。こういう形で人材が活性化していけばよいと思いますし、そうした機会を作るのもこれからの人事の重要な役割です。

――経団連と大学で通年採用の合意がありました。今後は人材採用や育成の方法も変わっていきます。

白岩:これからは、世の中の動きに合わせた採用の仕方をしていかないといけません。欲しい人材を勝ち取っていくためには、狙いを絞った学校や学部に食い込んでいくことも必要で、それこそ「攻めの人事」になります。

 育成も簡単ではありません。2年前に人財開発部を作り、今年4月には、社内の育成機関としてKDDIラーニングを立ち上げました。当社のような通信事業者には、以前のような追い風ではなくこれからは向かい風が吹いてきます。そのようなタフな状況に打ち勝てる人を育てるのも、人事の仕事です。

 こうした人材育成には座学だけなく、様々なプロジェクトを任せ、異動させたりしながらタフアサインメントをし、経験値を積んでもらうことを考えています。社員のエンゲージメントを上げるためのエンパワーメント(機会を作る、裁量を与える、権限を移譲する)が人事の役目で、これが個のパフォーマンスを上げることにつながります。

――権限を持ってプロジェクトを進められることが、人材の成長を最も促すと思います。

白岩:社員の自律を促すには、ルールで縛るのではなく裁量権を与えるのが必須です。任せることをしないと、人材は育ちません。ゴールに到達する方法はいろいろあるので、各自が自律して動きゴールを目指せるようになるのが理想です。これからは、そこに向かって舵を切っていきたい。

 またこれまでは全社員に同様に育成の機会を与えていましたが、今後は個を見ながら指名したり、本人の希望を重視したりしていきます。

 2000年に合併した当社も19年たち、世代も世の中も変わってきました。「KDDIフィロソフィ」のように歴史あるものや守るべきものはきちんと残しながら、壊すべきものは壊していく。これまでのカルチャーを一気に変えていくことが必要で、そうしないと会社の成長もありません。

 人事とは、経営者をサポートする重要な役割です。経営トップである社長と人事が目指す方向性が同じか、考え方をシェアしているかを確認するため、月に2回はトップと面談する機会を持つようにしています。その際、受け身ではなく、人事がこちらから積極的に提案していくことが大事で、それこそが「経営×人事」であり、これからのCHO、CHROの役割だと考えています。

大塚 葉(おおつか・よう) 日経BP 日経BP総研 HR人材開発センター長
大塚 葉 日経BP入社後、「日経PCビギナーズ」発行人兼編集長、日経ビジネスオンライン、日経WOMANプロデューサー、日経BPコンサルティングカスタム出版本部第二部長などを経て現職。著書に『攻める周年事業で会社を強くする!』(日経BP)、『社史・周年史が会社を変える!』(日経BPコンサルティング)、『やりたい仕事で豊かに暮らす法』(WAVE出版)、『ミリオネーゼのコミュニケーション術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。