2019年5月29・30日の2日間、東京国際フォーラム(東京・有楽町)において、日経BPでは、「CHO Summit 2019」を開催した。働き方改革、ダイバーシティ、人手不足、健康経営、会社とそこで働く人々との関係性が大きく変わってきた。それら諸問題は、今や経営戦略における最重要テーマであり、CHO(Chief Human Officer=最高人事責任者)という職責も生まれてきた。本サミットでは、人事にまつわる様々な課題とその解決策について、先進的な取り組みを実践する企業トップや有識者による講演を行った。その中から東京大学経済学研究科・経済学部教授、柳川範之氏による「『技術革新の時代』の組織と人材のあり方」の講演を振り返る。
(構成=MARU、写真=吉澤咲子)

東京大学 経済学研究科・経済学部教授 柳川範之氏

日本企業の最重要課題はスピード感の欠如

 現在、日本の産業に3つの大きな変化が起きています。まず、人口が減り、寿命が延びることによる人口の逆ピラミッド化、そして技術革新による人工知能やビッグデータの活用などのIT化。最後にグローバルな国際環境の変化です。

 技術革新によって新しい人材が必要になったとしても、変化がゆっくりであれば、企業内での大きな問題にはなりません。必要な能力を次の世代に身に付けてもらえば十分に間に合うため、課題は次世代への教育へと移ります。しかし、現在起きている変化は非常にスピードが速いため、新しい世代で育つ人材を待つ時間はありません。

 スマートフォンの登場から約10年、私たちの日常生活は激変しました。ところが、日本の企業はそれに合わせた変化をしてきませんでした。気づいた時には、世界に遅れを取っていて、これからは大変なスピード感で変わらざるを得ません。最近、「日本の企業経営の課題は何か」という質問を頂きますが、まさに最重要課題はスピード感の欠如です。

圧倒的な人材不足の時代をどう超えていくか

 急速な産業構造の変化に対して、人事や働き方の面で必要な検討課題は、変化に対していかに人材を適合させていくか、必要な人材をいかに獲得するかということです。さらに、変化に遅れることなく、人材が十分に活躍できる環境を生み出すことが重要になってきます。

 技術革新への対応が迫られていると同時に、その恩恵によってリモートワークやテレワークなどを取り入れた有意義な働き方が可能になりました。これから重要になってくるのは、人材が持っているスキルをこの新たな環境にどう合わせていくのかということ。そして、これから必要になる人材を把握し、獲得していくことです。

 これから圧倒的な人材不足の時代がやってきます。というと「AIが人の仕事を奪うと言われている時代なのだから、人口が減っても人手不足にはならないのではないか」という反論を頂きます。マクロ的にはその議論は成り立ちますが、実際は、足りない場所へ、余っている人間を配置して活躍できるはずもありません。その仕事に見合うスキルや能力がなければ雇うことはできませんから、企業が必要とするスキルを持つ人間は不足します。

 いかに優れた人材を確保するか育成するかは、最重要課題です。同時に優れた人材ほど囲い込みが難しくもなります。いかに良い人材を惹きつけるのか。給与や肩書きだけではない有意義な働き方ができる仕掛けを、企業の中で考えていく必要があります。