新規事業がなかなか生まれないという課題を抱える大企業は少なくない。一方で、事業展開がスピーディーなベンチャー企業には、常に人手不足という悩みがある。そこで、大手企業がベンチャー企業へ社員を「レンタル」し、イノベーションを生み出せる人材に育成する仕組みを考案。このビジネスモデルで起業し、注目を集めているのが、ローンディール代表取締役社長の原田未来氏だ。人材を受け入れるベンチャー企業、人材を貸し出す大企業、そして移籍を体験する本人にとってメリットがある。2018年5月、ローンディールは自社イベントをオープンイノベーションスペースとして話題の「Base Q」(東京ミッドタウン日比谷)で開催。ロート製薬 山田邦雄代表取締役会長兼社長や早稲田大学 入山章栄准教授が登壇、人事担当者など250人以上が集まった。原田氏にレンタル移籍の取り組みと今後の課題について聞いた。
(取材・文=原田かおり:日経BP社 日経BP総研 主任研究員)

ベンチャー企業で働ける、貴重な1年間

――5月のイベントでは、NTT西日本の社員でレンタル移籍を1年間経験した方も登壇されました。手ごたえはいかがですか。

原田代表取締役社長(以下、敬称略):昨年から風向きが変わったと感じています。NTT西日本様にレンタル移籍を導入していただいたことが大きかったですね。イベント来場者のうち約200人の方々とはすでに商談しています。2015年の創業以来、課題を感じている大企業の方々から相談や問い合わせをいただき、話が進んでいくことがほとんどです。また、30代の大企業若手社員や新規事業に取り組む担当者から、自社の人事や人材開発部門に説明に来てほしいと声を掛けてもらうこともあります。最近は、人事部門から直接問い合わせをいただくようになりました。

原田未来氏
原田未来氏
2001年、株式会社ラクーン(現 東証一部上場)入社。部門長職を歴任し同社の上場に貢献。長く在籍するにつれて組織への愛着が深まる一方で、成長の鈍化に直面。2014年、株式会社カカクコムに転職し、新規事業開発。自身の経験から複数の業界・企業・職種を経験することの意義を実感するとともに、個人と組織の信頼関係の重要性に気づく。個人が「会社を辞めることなく外の世界を見る経験」として、また、企業が「人に成長機会を提供する手段」として、レンタル移籍を構想。2015年に株式会社ローンディールを設立。

――人材サービス業など他社でも、今の勤務先に在籍しながら異業種や異職種で働ける研修サービスが登場しています。それと比べて、ローンディールの強みとはなんでしょうか。

原田:私自身がベンチャー企業に入社し、その会社が東証マザーズに上場するまでの間、部長職まで務めて、すべての過程を見届けた経験があります。ですから、大企業の社員がベンチャー企業へ行った時に、どんな経験ができるかを身をもって知りました。そして、移籍者にマッチングするベンチャー企業のネットワーク作りも含めて、他社よりも目利きができると考えています。

――「レンタル移籍」する大企業の社員は6カ月間から1年間と長い期間、ベンチャー企業で働くのも特徴ですね。

原田:よく大企業の方からは、「週1回、または3カ月ならなんとかなる」と言われます。それでは意味がありません。移籍者が違いに気づくことができるようになるだけなら3カ月間でも可能でしょう。ただし、移籍者自身の意識を変えて自分から動ける人材になるには、さらに3カ月間が必要です。そして、意識と行動の習慣を自分の血肉にして、自分自身で回していけるようになる、補助輪なしで走れる人材に変えるには、やはり1年間が必要です。

 NTT西日本の方が、初めて1年間のレンタル移籍を経験しました。移籍したばかりの頃は仕事のスピード感にぼうぜんとしていた彼も、半年後には「日々の売り上げを5万、10万円と立てる重みを痛感しています」と話すようになりました。最後の頃は、自身の後任採用や仕組み作りもしたうえで、NTT西日本に戻りました。同様に、関西電力や大鵬薬品工業でも6カ月間のレンタル移籍を行い、移籍者が「化ける」のを見てきました。