小さく産んで大きく育てる

 しかし、問題は人事側においても、これからのパフォーマンスマネジメントを支援するための十分なノウハウを持ちあわせていないところにあります。そのため、人事部門におけるノウハウの蓄積が急がれますが、時間をかけて勉強すればよいわけではなく、ここでもアジャイルなアプローチが重要になります。実際に経験しなければ、効果的な学習ができないからです。

 今後の人事部門の役割として、HRビジネスパートナー(HRBP)の考え方を導入する企業が増えています。このモデルにおいては、人事の役割は大きく以下の3つに集約されます。

・HRBP:ビジネス部門を人事の面から戦略的に支援する役割
・COE(センターオブエクセレンス):HRに関連する専門性を
 提供する役割
・HRシェアドサービス:人事関連の業務処理を効率的に行う役割

 HRBPとCOEがこれまでには明確に定義されてこなかった機能ですが、これらの役割を定めたからといって、すぐに成果が現れるわけではありません。具体的な施策を伴っていなければ、役割はできたもののやっていることはこれまでと同じ、といった状況に陥ってしまいます。

 しかし大きな企業では、全社的に変革を起こそうとしても変革に対する抵抗が強く、人事側も十分にノウハウを伴っていないため、うまくいかないリスクが少なくありません。そのような場合は、変革に対して前向きな部門をパイロットに選定して、小さく始めることが効果的です。パイロット部門での取り組みにおいて具体的なノウハウを蓄積したうえで、全社的にHRビジネスパートナーモデルを導入した方が、スムーズに移行できる可能性が高まります。

 パイロット部門において評価制度の見直しなどを行う場合は、「特区」のような取り扱いが必要になります。人事制度は全社一律でなければならないという考え方が強い会社では抵抗があるかもしれませんが、「人事が変わった」という象徴的なインパクトが示せる効果もあります。まず、人事が変わった姿を見せることによって、事業部門の変革を促すことができるのです。

人事のキャリア開発機会を自ら広げる

 人事の方の中には、自らの役割を変えることへの抵抗がある人がいるかもしれません。しかし、この変革は人事を抑圧するものではなく、これまでよりもはるかに活躍の幅を広げることを意味しています。

 HRBPが機能すれば、「従来の制度の番人」の立ち位置では感じられなかった、ビジネスへの貢献実感を得られることでしょう。それによって人事の仕事における働きがいは大いに高まるはずです。また、既存制度の知識だけではなく、人材開発、組織開発、HRテクノロジーなどの新たな専門性を獲得することによって、人事プロフェッショナルとしての成長の幅も広がります。

 「成果主義人事の限界」と題した6回の連載も、今回が最終回となります。

 「人事が変わらなければ会社は変わらない」というのは言い古された言葉ですが、今ほど、この言葉が当てはまる時代はないと思います。人事が率先して変革に取り組むことによって、会社が変わるだけでなく、人事に従事する方々のキャリア開発機会も拡大するのです。人事という仕事をビジネスにおける素晴らしいキャリアにできるかどうかは、自ら行動するかどうかにかかっているといえるでしょう。

■松丘啓司氏のセミナー(参加無料)
「人事評価はもういらない-成果主義人事の限界」
日時:2018年4月25日(水)15:30~17:30

松丘 啓司(まつおか・けいじ) エム・アイ・アソシエイツ株式会社 代表取締役
松丘 啓司

 1986年東京大学法学部卒業後、アクセンチュア入社。同社のヒューマンパフォーマンスサービスライン統括パートナーを経て、2005年に企業の人材・組織モデル革新を支援するエム・アイ・アソシエイツ株式会社を設立。同社ではパフォーマンスマネジメント、ダイバーシティ&インクルージョンなどの領域を中心にサービスを提供。主な著書として、『人事評価はもういらない』『論理思考は万能ではない』『アイデアが湧きだすコミュニケーション』『ストーリーで学ぶ 営業の極意』『提案営業の進め方』『組織営業力』などがある。

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。