◆事件簿ファイル1――メンバーを認めない営業部長A氏

営業部長のA氏はとても優秀で、トップの成績を残してこれまで何度も表彰され、35歳という若さで、社内では史上最年少の営業部長に抜擢されました。彼はやる気に満ちあふれ、部下を叱咤激励し、業務に取り組みました。あるとき、部下のS君が、次のような相談にきました。

 「いろいろと会社をまわり、担当者とお話をしています。どの会社の方もとても関心を示してくれるのですが、なかなかうまく受注につながりません。どうしたらいいか、アドバイスをいただけますか?」

 それを聞いたA氏は言います。

「受注が取れないのは、自分の責任ではないか。私もそのようなことに何度となく直面したが、何度も何度も通うことで解決してきた。営業には粘りが大切だ。何度でも通うしか方法はない。努力が足りないな。あきらめずに通い続けなさい」

 S君は、「はあ」とため息混じりの声を漏らし、すごすごと席に帰っていきました。そして、打開策が見つけられず、途方にくれてしまいました。

 ここで、上司のA氏は致命的なミスを犯しました。なんだかおわかりになるでしょうか? 営業先に足しげく訪問することはとても重要なのですが、その前に次のことをすべきだったのです。

○部下を承認する

 部下は営業先に何度も通い、担当者とも話し、尽くせる限りの努力をしているのです。しかし、A部長は、S君が多くの企業に営業に行っていることを一切承認せず、「現状では足りない。もっともっと通うべきだ」と、受注できないことを責めるだけです。また、S君はアドバイスをほしいと言っているのに対して、受注にいたらない原因の分析や具体的なアドバイスを何もしていないのです。部下からしたら、「せっかく相談したのに叱られただけ。相談しても意味がなかった」と思い、上司への信頼を失うばかりか、仕事へのやる気を失ってしまうことでしょう。

 「部下の承認をしない」ということは、話だけを聞くと、当たり前のように思えますが、実は私が多くの経営幹部の方にエグゼクティブ・コーチングを行う中で、もっともよく出くわす課題です。

 経営幹部の方自身はとても優秀であり、承認をされずとも、自分自身で解決策を模索し、道を切り開いてきました。そして、それを部下にも求めます。しかし、部下にはいろいろな人がおり、自分自身で問題点を探り、解決策を導き出せる人もいれば、手を差し伸べなければ解決できない人もいるのです。それをエグゼクティブの方は認識する必要があるのです。

 このように、エグゼクティブが抱えている課題を見つけ出し、行動変革を促していくのが、エグゼクティブ・コーチングの役割です。