鳥居勝幸
サイコム・ブレインズ株式会社代表取締役COO

新人を薄っぺらな販売テクニシャンにするな

 いま本社人事部での新人研修期間が長くなる傾向が見受けられます。「支店には新人を教える余裕がなくなった」というのがその背景です。また研修費用を抑えたいという理由から、新人研修の講師は社員が務めるという企業が増えています。この二つの傾向から「研修のOJT化」が進んでいます。変な言葉ですが、従来On the Job Trainingでやってきたことを研修で教えるようになったという意味です。これは合理的ですが、その半面、落とし穴もあります。

 今年、メーカーなどの営業支店から人材育成部門へのクレームで気になったのが、「お客様への挨拶や名刺交換ぐらいできるようにしてから新人を寄こしてください」という類のものです。客先に新人を連れて行ったら恥をかいた、というのです。しかし、そういう基本こそ、実は現場で状況に応じて教えていく必要のあることです。もちろん、新人研修で名刺交換を教えることは必須ですが、顧客側と自社側の人数、役職、面談する部屋の形など、状況によって振る舞い方は変わってきます。これらは同行訪問の行き帰りで、先輩が教えるべきことです。現場は研修に依存し過ぎると現場らしくなくなります。

 では、本社の人材育成部門が研修で教えるべきこととは何でしょう。支店に配属されて3カ月経った新人営業パーソンのフォローアップ研修で、講師が「君たちの仕事は何か?」と問いかけます。するとほぼ全員から「売り上げを挙げることです」という答えが返ってきます。そう、支店は数字の世界なのです。だから新人は「売るテクニック」を欲しています。それは本来OJTで教えていたことです。仮にそこに重点を置いた研修にした場合、果たして新人の骨格ができるのかどうか。新人は3年後、5年後に向けてどんな「営業人格」に育っていくのでしょうか。

 営業パーソンとしての土台は「顧客を理解し、顧客から理解されること」。そして「顧客に貢献すること」です。この営業の基本姿勢を、日々数字と戦っている支店は効果的に教える術を残念ながら持っていません。こういったことは「手取り足とり教える」とは対極にあり、「考えること、対話すること」によって気づかせていく必要があります。OJTで教えていたことを研修で担う傾向が強まる中、いま一度「骨太く正しい営業に育つ土台をつくる」という研修の役割を再認識する必要があるのではないでしょうか。不況下で営業部門に余裕がない現状においては、人材開発部門こそがその役割を担う必要があります。