新人を教える人が、まず「育成者としての自分」をつくる

 バブル崩壊後にいわゆる就職氷河期があり、部下・後輩を持った経験に乏しい上司・先輩が多くなっています。彼らは新人の扱い方に慣れていないせいか、かえって「上司たるもの」という意識が強すぎるようです。そして、必要以上にきつい言い方で指導する傾向があります。もともと指摘されることに慣れていない新人にとって、そのショックは小さくありません。それを学習してしまった新人は、自分から積極的に動くよりも、「叱られないこと」が行動の要点となります。

 支店で新人を受け持った上司・先輩はOJTのトレーナーの役割を担います。その際に重要なのは、職場での自らの振る舞い方と、新人に向き合う姿勢です。商品知識やセールストークを教えることは重要ですが、その前に形成してほしいのは「育成者としての自分」です。

 IT機器メーカーA社とその有力販売会社B社は、共同で「新人育成担当者を育成するプロジェクト」に取り組みました。新人育成担当者となる先輩営業パーソンを「ブラザー、シスター」と名付けました。プロジェクトの目標は「1年後に新人営業パーソンが一人も辞めないで戦力化していること」です。それまでは退社する新人も多く、育成がうまくいっているとは言えない状態だったのです。

 ブラザー、シスターを対象とした研修は、まったく研修らしくない研修で、テキストには解がありません。育成者としての姿は何か、新人にどういう影響を与えるかといったことを様々な角度から検討し、自らの腹に落とすまで話し合うワークショップです。それを年に数回行いました。その結果、先輩営業パーソンの新人に対する姿勢が形成され、当初の目標を達成することができたのです。

人材育成部門は、支店で教えられない営業思想を研修する

 新人はある時期から一人で顧客を訪問し始めます。今の時代の顧客は、営業パーソンに対して「言葉は優しいが、言っている中身は厳しい」という傾向があります。以前の顧客には「営業の新人を育ててやろう」という気概があり、ちょっと乱暴なことを言いながらも温かみがありました。顧客に時間の余裕があったのでしょう。それに比べて今の顧客は多忙です。相手が新人でも容赦しません。そうすると営業は「行うべきことをミスなくやって帰る」という思考にとらわれやすくなります。

 もう一つの傾向は、「とにかく売ればいい」という数字ありきの、偏った価値観です。支店は目標を追う世界なので、そこでは数字を挙げることを徹底して教えられます。現在は景気もかんばしくないため、支店はとくにその傾向が強くなっています。

 営業の目的とは本来「主体性を持って顧客に貢献すること」です。売り上げはその結果です。そのためには「関心を持って顧客を理解し、顧客からも理解されること」が不可欠なのです。「三つ子の魂、百まで」と言われますが、5年後、10年後と太く正しい営業に育ってもらうために、1年目にその考え方を植え付けておく必要があります。ところが現状では支店でそういったことを効果的に教えられません。それこそ集合研修の役割となってきています。

 金融関連のC社では「営業テクニックを早く教えすぎない」という考え方のもと、年に数回の新人営業研修が行われます。入社して2、3カ月が過ぎたころから、営業の本質を考えさせるセッションを始めます。たとえば、模擬的に顧客体験をすることによって、「理解されたときの喜び」と「理解されなかったときのストレス」を知ります。そのような体験から「顧客を理解することの大切さ」に気づかせます。また、「顧客にどうなっていただきたいか」をイメージするトレーニングにより、自分が提案するべきことを明確にします。これらは数字から離れた研修所だからこそできる学習です。