インナー・ワーク・ライフの視点

 以前も述べたが、成果主義の崩壊により組織的な対応が意味を失っている現状では、ますます「個」に注目する必要がある。個人個人の動機をドライブして成果実現へ結び付けることが、結果として組織力を上げることになるのだ。いくら社内研修を実施し、社内イベントでコミュニケーションを図っても、肝心の社員一人ひとりが芯からモチベートされていなければ、それらの施策はすべて付け焼刃に終わってしまう。組織・風土づくりはもちろん、人材育成の枠組み全体が「個」の動機をどれだけ誘発できるかという視点から構築されている必要がある。

 その観点から、インナー・ワーク・ライフ(T.M.アマビール&S.J.クラマー「知識労働者のモチベーション心理学」)の視点が、仕事へのモチベーションを高めるうえで興味深い。これは個人の身の回りに起こる職場での出来事はすべて個人の「認識」と「感情」の相互作用によって解釈されて「モチベーション」に作用し、何らかの「行動」に結び付くという考え方である。「認識」とはその個人が持つ仕事の意味とか価値観、物事の考え方やとらえ方の癖であり、「感情」とは単純に好き・嫌い、うれしさ・悲しさ・怒り、幸福感・挫折感・不安感などを指す。また、「感情」は身体の自律神経系に作用し、内臓の変化を引き起こして健康に影響する※ こともわかっている(図2参照、※内容追記)。

 「認識」と「感情」は外部からの刺激に対して一瞬にして相互作用し、「モチベーション」に影響するが、逆に「モチベーション」を上げるためには「認識」と「感情」をコントロールすればよいということになる。しかし、「認識」は個人の価値観や物事のとらえ方の癖などに影響されるし、「感情」は自然発生的にわいてくるもので、両者ともそう簡単にコントロールできるものではないだろう。しかし私は、ここにこれからの人材マネジメントに必要な視点があると思っている。具体的には、自分以外の視点により情報の解釈を変えることで「認識」を変えたり、入ってくる情報を量的・時間的にコントロールして「感情」を調整するといった方法が考えられる。

 仕事の成果を創出するためには「モチベーション」が高い状態での「行動」と「モチベーション」が低い状態での「行動」(あるいは「行動」に至らない状態)にどれほどの差があるかは明白である。つまり、組織・風土、人材育成システムなど人材開発の枠組み全体をインナー・ワーク・ライフの視点をもって構築することが重要なポイントとなる。