市場価値を高めることをキャリア開発の目的にすると、どこまでも「もっと市場価値を高められる仕事があるのではないか」と青い鳥を追い求めてしまう恐れがあります。また、市場価値を高めることをキャリアの目的としている限り、いつまで経っても自分自身の市場価値は高まらないでしょう。なぜなら、市場価値とは個人が成長した結果、得られる「結果」だからであり、「目的」にはならないからです。そのため、キャリア開発において重視すべきものは、自分自身の成長でなければなりません。

(2)キャリアはアップダウンしない

 「キャリアアップ」という言葉が一般的に使われますが、「キャリア開発=仕事を通じた個人の成長」と定義すると、キャリアはアップしたり、ダウンしたりするものではないことがわかります。キャリア開発とは常に上の役職ポストを目指すことというのは、かつての正ピラミッド時代における旧パラダイムのキャリア開発概念です。

 個人の成長には終わりがありません。社会に出てから引退するまで、個々人が仕事を通じて自分を磨き輝かせることが今日におけるキャリア開発です。そのため、「転職すればキャリアアップできる」というのも誤解です。転職するということは、これまで培った社内の暗黙知や人脈を失うことであるため、多くの場合、成長のスピードを落とすリスクがあることが認識されなければなりません。

(3)軸は内にある

 市場価値や役職ポストは自分の「外の軸」です。外の軸からは、「何のためにその仕事をしているのか」を説明できません。単に市場価値や役職ポストが高ければよいというのであれば、仕事は何でもよいという結論になってしまうからです。そこにはその人ならではのアイデンティティが存在しません。

 現在、企業が求めるのは、変化への対応力の高い人材です。100社に聞けば、100社すべてがそう答えるでしょう。変化の波の上をサーフィンのように乗り移っている人は、一見、変化への対応力が高いように見えますが、実は変化に翻弄されています。なぜなら、その人は変化に対して受け身だからです。逆に変化への対応力の高い人材は、自分自身の価値観や信念といった「内の軸」をしっかりと持っています。内の軸がぶれなければ、変化に流されることはなく、むしろ変化を自分なりの尺度で評価し、そこにチャンスを見出すことができます。そのような人こそ、「キャリア自立」した人といるといえるのです。

 企業が進歩や創造を生みだすには、「違い」を活かすことが必要であり、そのためには個々人のキャリア自立が不可欠といえるのです。

松丘 啓司(まつおか・けいじ) エム・アイ・アソシエイツ株式会社 代表取締役
松丘 啓司

 1986年東京大学法学部卒業後、アクセンチュア入社。同社のヒューマンパフォーマンスサービスライン統括パートナーを経て、2005年に企業の人材・組織モデル革新を支援するエム・アイ・アソシエイツ株式会社を設立。同社ではパフォーマンスマネジメント、ダイバーシティ&インクルージョンなどの領域を中心にサービスを提供。主な著書として、『人事評価はもういらない』『論理思考は万能ではない』『アイデアが湧きだすコミュニケーション』『ストーリーで学ぶ 営業の極意』『提案営業の進め方』『組織営業力』などがある。

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。