多様性は目的か、手段か、条件か

 多様性を目的ととらえる人もいます。アジア初のノーベル経済学賞を受賞したアマルティア・センは、「経済成長が目的なのではなく、多様な人の自由や潜在能力の向上のために経済成長が必要なのである」という趣旨の主張をしています(「自由と経済開発」、日本経済新聞出版社)。

 この考え方によると、多様性(=多様な人を活かすこと)が目的であり、経済成長はそのための手段です。経済成長を生み出すのは企業活動であるため、企業活動は多様性を活かすための手段ということになります。企業活動を行っている人の立場からすると、こうした考え方には違和感があると思われますが、果たして立場が異なる人の見解と聞き流してしまってよいでしょうか。

 多様性に対して懐疑的な意見を持つ人は、しばしば「それで儲かるのか」と言います。この発言の根底には、儲け(=利益)が目的であり、多様性はそのための手段として有効かどうかの証明が必要である、という論理があると推察されます。これはまっとうな考え方のようにも思われますが、実は少々、乱暴な論理です。

 まず、利益は目的かという疑問があります。ピーター・ドラッカーは、利益は企業の目的ではないと言っています。なぜなら、「利益のために事業をしているということから、彼がいかなる事業を行っているかは知りえない」からです(「マネジメント 基本と原則」、ダイヤモンド社)。やや、わかりにくい表現ですが、要するに儲けることを目的とすると、儲かれば何の事業でもよいという結論に至ってしまい、なぜその事業を営んでいるのかという本来の「目的」が説明できないのです。

 それでは、利益は企業にとって何なのかというと、ドラッカーは「目的ではなく条件」であると言っています。企業は利益を出さない限り存続できないため、利益は存続のための条件であるというのは納得しやすい考え方です。

 しかし、ドラッカーが利益は条件であると述べているのは、単に赤字続きだと存続できないからという消極的な理由ではなく、利益は企業活動の「妥当性の判断基準」であり、「高い利益をあげて、初めて社会貢献を果たすことができる」という論理に基づいています。つまり、利益は企業が社会に貢献していることの証しであるととらえているのです。

 この観点からすると、多様性もまた「条件」と言えます。企業は社会によって存在を許されている存在であるため、社会から反感を買ったり、責任を果たしていないとみなされたりすると存続することができなくなります。ダイバーシティマネジメントが、もともと企業のリスクマネジメントやCSRから発祥してきたのは、この「条件」としての多様性を維持・強化するためです。

 「条件」としての多様性のマネジメントの必要性は、今日においても変わりがなく、重要性は一層、高まっています。しかし、ダイバーシティマネジメントは経営戦略であるとしばしば言われるように、多様性には単なる「条件」以上の積極的な意味があります。