論理思考は万能ではない

 昨今、企業内教育で論理思考(ロジカルシンキング)の能力を高める研修を実施することが一般的になっています。私も20年余り前に駆け出しのコンサルタントだったころ、ミントピラミッドやデシジョンツリーなどを使った論理思考の研修を受けた記憶がありますが、そのころは世の中のあらゆる会社で論理思考の教育が行われるようになるなどとは、とても想像できませんでした(どうやら私の想像力が不足していたようです)。

 私ごとを例にとると、私が20代半ばの今よりずっと頭が柔軟だったころ、金融機関に対するリスク管理のコンサルティングの仕事を何年かしていたことがあります。リスク管理というのは、たいへん論理的な世界です。市場の統計的なデータなどに基づいて、金融機関が抱えるリスクを定量化し、どのような変化が起きれば、そのリスクがどれだけ変動するかを明らかにするものです。

 数式を駆使して、リスクを分析する仕事は面白いものでしたが、常々、素朴な疑問を抱えていました。それは、どれだけ精度の高いモデルを作ったとしても、どれだけのリスクをとるかを最後に意思決定するのは人間であるため、その人の判断が間違っていれば、何にもならないのではないかということです。

 また、意思決定の精度を上げるために、より精緻なレポートやシミュレーションツールを用意することはできるものの、判断のための情報が増えれば増えるほど、思考が複雑になってしまって、かえって適切な判断ができないのではないか--という疑問もありました。現にほとんどの金融機関が、その後のバブル期に過剰なリスクを取り過ぎ、大きな痛手を被りました。