「自己理解」に基づく判断が必要

 判断が価値観に依存することは仕方ないとしても、その判断が適切かどうかは別の問題ではないか。価値観に基づく判断が適切かどうかを検証する作業が必要なのではないか、という疑問を持たれる方もおられるでしょう。まさに、そのとおりで、そのために「自己理解」が必要になってくると考えています。

 つまり、何かの判断を行おうとしている人は、自分が自分の価値観に従って判断しようとしていることを客観的に認識できていなければなりません。また、自分の過去の経験から、自分の価値観に基づいて行った判断がどのような未来を生み出したかを振り返り、それに照らして、現在の判断の妥当性を評価できなければなりません。そのためには、自分の価値観に対する「自己理解」が不可欠です。

 仮説と検証を繰り返すことは、論理思考の基本ですが、自分自身(自分の組織を含む)の未来を決める意思決定の仮説は、自分の価値観に依存します。

 より正確に述べるなら、論理思考によって分析された状況認識のもと、将来どうなりたいのか、そのために現在、どのような選択を行うべきかという仮説は、自分の価値観に基づいて発想されるのです。その仮説が、論理的に検証されると同時に、自分の過去に照らして、果たしてその判断でよいかという内省が加えられることによって、判断の適切さが高められていきます。

 つまり、適切な判断を行うためには、「論理思考」と「自己理解」に基づく省察(自分を客観視して捉えること)が一体のものとしてなされる必要があります。論理と価値観、過去と現在と未来を全体的に見ることによって、「自分なりの判断」を確信することができるようになるのです。「未来に対する想像力」とは、そのような能力を指しています。

 実際の企業内研修の場において、「論理思考」と「自己理解」の教育を同時に行うことは、現実的ではないかもしれません。両者の内容や研修方法は大きく異なるからです。しかし、双方の関連性についての理解を十分に高めることは、育成の前提としてたいへん重要であると考えています。

松丘 啓司(まつおか・けいじ) エム・アイ・アソシエイツ株式会社 代表取締役
松丘 啓司

 1986年東京大学法学部卒業後、アクセンチュア入社。同社のヒューマンパフォーマンスサービスライン統括パートナーを経て、2005年に企業の人材・組織モデル革新を支援するエム・アイ・アソシエイツ株式会社を設立。同社ではパフォーマンスマネジメント、ダイバーシティ&インクルージョンなどの領域を中心にサービスを提供。主な著書として、『人事評価はもういらない』『論理思考は万能ではない』『アイデアが湧きだすコミュニケーション』『ストーリーで学ぶ 営業の極意』『提案営業の進め方』『組織営業力』などがある。

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。