◆日本法人社長F氏の改善方法

 それでは、日本法人社長F氏のように、「『現場の目標』と『組織の目標』がつながらない」という課題を抱えているエグゼクティブの方をどのように改善したらいいでしょうか。

 繰り返しになりますが、まずリーダーは「組織の目標」と「現場の目標」をつなぐ橋渡し役であると認識させることです。「現場の目標」(=「現場」としてこうしたいという目標)と「組織の目標」は必ずしも一致している必要はありませんが、共存している必要があります。「組織の目標」を前提として現場は「どうありたいか」を考えるのです。

 次に、「組織の目標」が現場や各メンバーの目標(自分のスキルアップができる、報酬が上がるなど)にどのように結びつくのかを明示する必要があります。

 前回お話ししたように、「組織の目標」を達成することで自分たちにどのようなメリットがあるのかを伝えます。メンバーに「組織の目標」を伝える場合、その目標についてリーダーが納得していることが大前提なのですが、その点を認識していないリーダーの方がよくいます。

 「トップが決めたからしょうがない」、「本社が言っているから従うしかない」

 このようなことを口にしている方を見かけることがありますが、会社から与えられた目標が高すぎたり、理にかなっていないと感じたならば、リーダーは勇気を持ってトップと「妥当な目標」にするための交渉をしなければなりません。

 先ほども述べた通り、300億円という目標を与えられ、「300億円は正直厳しいけれど、270億円、280億円なら達成できるかもしれない」と感じるのならば、リーダーは率直にトップに伝え、交渉すべきです。

 ただし、いったん「組織の目標」を引き受けたのならば、リーダーが責任を持ってその目標をチームメンバーに伝える必要があります。そのときのポイントは、"翻訳"をして伝えること――数値の根拠を示すとともに、どのようにその目標を達成するのか、そのプロセスを提示してあげることです。

 「300億円という目標はとても高いものですが、昨年のわれわれのパフォーマンスを評価してくれたうえで、本社が提示してきたものです。私は○○分野と ○○分野に力を入れて取り組めば、達成は不可能ではないと思います。この目標を達成すれば、本社に対する日本法人のプレゼンスも高まります。発言力も増し、われわれが提案する企画などについても、もっと真剣に耳を傾けてくれるようになるかもしれません。みんなで頑張って取り組んでいきましょう」

 このように「翻訳」してあげることで、メンバー1人ひとりのやる気が増すことになります。そして、最後に何よりもリーダーが率先して目標達成に対してコミットしていくことです。たとえば目標達成ができなければ、何らかの形で責任を取ることを示すのです。

 「君たちの能力を信じて必ず達成できると思い、本社のこの数値を受け入れました。万が一この目標を達成できなかったら、私が必ず責任を取ります」

 面白いエピソードがあります。ある大手電機メーカーの会長が取締役会で会社の数値目標を述べた際に、社外取締役の1人が次のように尋ねたそうです。

 「それはコミットメントか?」

 「コミット」するということは、それを達成しなければ自分が責任を取る、つまり会長を辞めるという意味です。リーダーになったならば、これくらいの気構えを持って強く「コミット」していくことが必要です。

 今回は、東京法人社長F氏を例に、多くのリーダーが抱える「『現場の目標』と『組織の目標』がつながらない」ということに着目して、その改善方法を述べるとともに、エグゼクティブ・コーチングの役割についてお話ししました。