職場の荒廃

 また、職場の荒廃が進んでいるとも言われています。その原因はいろいろなものがあるでしょうが、私は多かれ少なかれ、1990年代から本格的に導入された成果主義が影響していると考えています。もちろん、成果主義がすべて悪いというわけではありません。成果主義というのは、本来は頑張った人の努力に報いるということで、組織を活性化する効用があります。頑張った人を適正に評価するということは、人々のやる気を引き出すものであり、良いことだと思います。

 ただし、運用には十分な注意が必要です。短期的な利益だけで評価していると、評価できないものがたくさん出てきます。また、短期の数字ですべてが評価されるとなると、誰もが「俺が、俺が」という気持ちを持つようになり、みんなで何かをやって成し遂げるという、組織としてのまとまりに欠けてしまいます。多くの企業で成果主義が導入されていますが、「短期的な利益」のみで評価をする企業の職場はすさんでいる状況です。

 ある外資系生命保険会社の役員の方と話をする機会があったのですが、彼は自社の部長たちの姿を見て、「自分のことしか考えていない」とこぼしていました。会社として短期の数字でしか評価しない仕組みになっているのが問題だと、率直におっしゃっていました。短期の利益ばかりが優先される成果主義の職場では、助け合いや協働するという意識が欠けてしまうのです。

心の病を抱える社員の増加

 このような背景を受けてか、心の病を抱えている人が急増しています。先日、厚生労働省のまとめにより、2008年度にうつ病などの心の病で労災認定された人が269人だったということがわかりました。これは前年度を1人上回る過去最高の数字です。このうち未遂を含む自殺の認定は66人で、前年度より15人減りましたが、過去2番目に多いという結果になりました。

 集計によると、精神疾患による労災申請は927人で、認定された269人を年代別に見ると、30代が28%、20代と40代が26%でした。自殺で認定された66人のうち、62人が男性で、年代別では50代が24人、40代が15人、30代が11人と続きました。あらゆる年代にわたっていることがわかります。

 この数字は氷山の一角でしかないと私は考えています。「ハインリッヒの法則」というものがありますが、これは、「1件の重大災害(死亡や重症)が発生した場合、その背景には29件の軽症事故とともに、300件の"ヒヤリ・ハット"がある」という法則です。米国の損害保険会社に勤務していたハーバート・ウィリアム・ハインリッヒ氏が労働災害の事例統計を分析した結果から導き出したものです。

 つまり、1人の自殺者や心の病を抱えている人がいる場合、ひょっとしたら自殺する可能性や心の病を抱えている可能性の高い人が29人いて、精神を揺さぶられている予備軍が300人いるということです。この法則から考えると、先日発表された人数の300倍(約8万人)以上の人が、何かしらの心の病を抱えていることになると推測できます。