大西 秀樹
埼玉医科大学精神腫瘍科教授

 医師になって23年目、精神科医として心のケアを担当しています。

 多くの人が精神科の外来に駆け込んできます。患者さんは精神科医に様々なことを訴え、精神科医はそれをじっくり聞いて患者さんの精神状態を判断し、臨床的な診断を下し、患者さんに説明し、状態によっては薬物療法を行います。

 医療現場では当たり前の光景です。でも、何故心のケアが必要なのでしょうか。

 私自身、医師になったばかりの頃、ケアというものについて、本当に有効なのだろうかと悩んだ時期がありました。ケアを行なっても症状は悪くなる一方・・・。私が行なっているケアにはあまり意味がないのではないかと。でも、1人の患者さんにお会いしてからその考えが根底から変わりました。今回はそのお話をしたいと思います。

 もう20年も前のこと、私が精神科医として駆け出しの頃のことです。外来に高齢の女性とその息子夫婦がやってきました。

 息子の言い分は「母を病院に入れたい」。息子は母を病院に入れたいと申し出てきたのですが、その理由が「自分たちに自由がないから」というのです。それも母親の目の前で。

 息子は続けます「おばあちゃんがいるから自分たちに自由がない。自由が欲しい。」と。何が自由なのでしょうか。こうして得られた自由に何の意味があるのでしょうか?

 母親は黙って聞いていました。悲しそうな顔でした・・・。こんな悲しそうな顔は見たことがありません。ご家族に対して、もう少し考えたほうが良いのではないかと言ったところ、息子夫婦は不機嫌そうな顔をして帰ってしまいました・・・。