リップシャッツ 信元 夏代
アスパイア・インテリジェンス社 代表取締役

 市場環境の変化が激しく、限られたリソースで生存競争を勝ち抜いていかなければならない現在、グローバル市場はもとより、日本市場においても、日系企業が直面する人材・組織面での課題は少なくない。今回から始める本連載コラムでは、個々人の能力開発や人材育成の手法ではなく、組織全体の求心力を高めるための事業戦略や組織開発の手法などに焦点をあてる。どのように従業員のモチベーションを向上させ、エンゲージメント(関与)を高め、個々の自発性やチームワークを醸成していくか。さらには、自社のステークホルダーたちとの協同まで視野に入れて変革を起こしていくか。米国を中心とした事例を紹介しながら考察していく。

「変える」ではなく、「変わる」を促進

 アメリカ国内における文具、オフィス家具、OAサプライなどのオフィス関連製品全般を取り扱う文具小売チェーン業界は、ウォールマートなどの総合小売チェーンを除けば、ステープルズ、オフィス・デポ、そしてオフィス・マックスの3社が市場をほぼ占有している。このトップ3社の2009年度の総売上高は、ステープルズが約245億ドル、オフィス・デポが約119億ドル、オフィス・マックスが約72億ドル。第3位のオフィス・マックスは1位と2位の大手競合に大幅に押され気味である。さらにオフィス・マックスの業績は年々減速しており、CEOをはじめトップマネジメントは「チェンジ」の必要性を強く感じていた。

 ところで「チェンジ」には、「変える」、「変わる」という二つの意味がある。 皆さんは普段どちらの意味で使うだろうか。どんなに組織を「変える」ことを行っても、組織が「変わる」ことがないことを経験されたことのある皆さんも少なくないのでは・・・。「変える」という言葉には、外から行うニュアンスや、一過性の響きも残る。組織を「変える」という場合は、対象として組織のハード(組織の形態や構造)を指していることが多い。

 一方「変わる」という言葉には、実質的な変化がもたらされているニュアンスがある。組織が「変わる」という場合には、真に質的な変化が起こり、組織のソフト(組織を構成する人々の意識や文化など)までをも含めている。

 つまり「変わる」とは、

  • 与えられるものではなく、自ら変化するもの
  • 表面的な変化ではなく、内面的で本質的な部分の変化

であり、「変化を意識的に起こし、変わるための意識や活動や状態を継続するようサポートし、変わるための一連の動きをマネジメントする」取り組みが、いわゆる「チェンジマネジメント」といわれるものだ。組織が「変わる」ためには、合理的な計画を立て目的に合った策を施すだけではなく、一人ひとりの従業員の心理への配慮や、組織のダイナミズムへの考慮などを、終始十分に行っていくことが求められる。

 オフィス・マックスはまさに、「チェンジ」とは「変わる」ことであると認識しており、それを実現するためにはまず、「従業員のエンゲージメントを向上させることが先決である」と考え、数年前、あるイニシアチブ構築に乗り出した。