リップシャッツ 信元 夏代
アスパイア・インテリジェンス社 代表取締役

 時に組織のチーム力は、理念の浸透を徹底して社員のモチベーションを引き出すことで醸成されることがある。“Huプロジェクト”は、ダウ・ケミカル社がB2B向け化学品会社であるために浮上してきた課題に対し、すべての事業の原点である“ヒューマン”にフォーカスすることで、社内外双方向の企業理念浸透を実現したプログラムである。今回はこの“Huプロジェクト”の概要を紹介しながら、企業理念浸透の重要性について解説する。

何をやっている企業?!

 主にB2Bの化学事業を手がけるダウ・ケミカルは消費財を扱う企業ではないため、一般消費者に対してのブランドイメージが不明瞭であった。このため、「何をやっている会社なのか一般にはなかなか知られていない」という課題があった。同時に、これが世界各国のダウ・ケミカルグループの社員のモチベーション低下にも影響していた。

 「自分ひとりがやる気を出してみたところで、広く認知されるわけでもなく、何かが大きく変わるわけでもないだろう」という考えが社員の間に蔓延し、自身の仕事に対する誇りなども薄れていたのだ。追い討ちかけるように、津波などの自然災害により大被害を受け、ダウ・ケミカルの株価は2008年第4四半期には30%も下落した。それ以後もこれまでにない不況に見舞われ、業界需要が激減。中東地域における主要なパートナーとのジョイントベンチャーが次々とキャンセルとなるなど、世界中のダウ・ケミカルのオフィスで大幅な人材削減を余儀なくされた。社員のモチベーション低下に歯止めがかからない事態に次々と見舞われたのだ。

 ダウ・ケミカルの経営陣は、「全社的に“自社にとって何が最も大切なのか”という自社の理念や価値観に立ち返る必要がある」と判断した。そしてその価値観を、ビジョン、ミッション、そして事業戦略と結びつけ、長期的なゴールを多角的に設計していくことで、ダウ・ケミカルという組織としての価値創造力に繋げることができると考えた。そこで誕生したプログラムのひとつが、“Huプロジェクト”である。

“ヒューマン”に焦点をあてたバリュー浸透で社員のやる気を呼び覚ます

 株価を含め、業績が下落している中、なぜダウ・ケミカルはあえて「企業理念(バリュー)」に目を向けようとしたのだろうか。

 まず、どんな組織にも必ず「その組織固有の価値観」が複数存在する。一方で、社員一人ひとりも必ず「個人の価値観」を持っている。そのため、「組織の価値観」は社員一人ひとりの「個人の価値観」と深くかかわりあいながら、社員の行動や組織の方向性に大きな影響を及ぼしているといえる。したがって、組織を構成している社員一人ひとり、つまり“ヒューマン”な要素にまず光をあて、個々人の価値観を引き出しながら、組織の価値観とベクトルを合わせていくことが組織特有の力を最大限に発揮することにつながると考えたのだ。