吉野明日香
株式会社エイチ・アール・ディー研究所 開発部 マネジャー

 私が入社した鶴亀魔法瓶は、創立80周年にもなる老舗企業だ。さらに100周年を目指して成長していくために、サスティナブル改革プランという長期的な経営戦略が作られていた。その戦略を担う人材の育成を目的に、ニューリーダー研修が企画され、なんと新人の私がサブ担当になった。メイン担当の永塚さんの指示を受けながら、研修の準備やアテンドと呼ばれる立会いをするらしい。

 そうそう、そもそもサスティナブルって、実はよく分かってなくて。こっそりネットで調べたら「(環境への多大な負荷を与えず)持続可能な」という意味だった。なるほどね。

 ニューリーダー研修は今年で第3期目。月1回の合宿を5回もやる大掛かりな研修だ。4月に入社して、まだ2カ月しか経っておらず、社内のことも部署の仕事も分かっていない私としては、研修の準備とかアテンドとか言われてもさっぱりイメージできない。

何をしたらいいか、よく分からなくて

 永塚さんから読んでおくようにと渡されたニューリーダー研修の資料は、第1期、第2期と分厚いファイルが1冊ずつと、第3期のまだ中身の入っていないファイルが1冊の計3冊だ。それをなんとなく読みながら、隣の席の平田さんに声をかけた。

「平田さん、来週からニューリーダー研修が始まるんですよ」
「あら、そういえば、もうそんな季節ですね」
「えっ、研修で季節を感じるんですか?」
「ええ。だって4月には新人研修、6月にはニューリーダーが始まって、8月には新任課長がありますし、実施の時期が決まっているものも多いんですよ」
「なるほどねぇ。…私、永塚さんからニューリーダー研修のサブ担当ってことで、準備をやるように言われてるんです。でも何をしたらいいか、よく分からなくって」

 永塚さんが席にいないのは知っていたけれど、少しだけ声を落として言った。平田さんは、入力していた伝票を机の上に置き、私の方を向いてくれた。

「昨年は私が少しお手伝いをしたんですけど…。一番大変だったのは、机とかホワイトボードとかプロジェクターとかいった機材の準備でした。他の研修に比べると、そういう機材を使う数が多かったんですよ。机の配置を島にしたり、途中で座席表を作り直したりとか…」
「そうですか…」

 平田さんが難しい顔でうなずく。平田さんは派遣社員だが、社歴は長いし、仕事は手際がいい。その彼女をして机や機材の準備が大変だったとは。これは大変だ。

「じゃあ、名簿をもらっているんですけれど、座席表とか作っておいた方がいいですかね」
「永塚さん、こだわりがある方ですから、ちゃんと確認された方がいいですよ」
「貴重な情報、ありがとうございます」
「頑張ってくださいね~!」

 そう言って、平田さんは胸の辺りで小さく手を振ってくれた。よーし、がぜんやる気が出てきたゾ。