いよいよニューリーダー研修が明日から始まる。私は一人で会議室のレイアウトを変更していた。平田さんが手伝ってくれる予定だったが急ぎの仕事が入り、一人でやることになってしまったのだ。キャスターが付いているとはいえ、机や椅子を何個も動かすのは大変で、しまいには汗だくになった。

 名札や出欠表や資料を後ろの机に置いて、自分たちで取ってもらうようにセットする。ホワイトボードのペンは、黒・赤・青と書き味を確認する。問題なし。永塚さんのチェックリストにはペンの色と本数しか書いていなかったけど、平田さんが「ペンが書けるか、ちゃんと調べたほうがいいですよ」と教えてくれたのだ。こんなことまで…と思うが、確かに書けなかったら困るしね。もう一度、リストを確認してみる。これで準備万端だろう。

コミュニケーションを促進し、チーム意識をつくり出すために

 研修当日、まず永塚さんが、専務からのメッセージや、研修の趣旨、諸注意の伝達を行った。続いて講師の先生が紹介され、私もスタッフとして紹介された。なんだか緊張しちゃう。講師は今川先生という男性で、50歳くらいだろうか。にこやかで落ち着いた雰囲気の人だ。永塚さんから今川先生にバトンタッチすると、今川先生はプロジェクターを操作し始めた。すると、すかさず永塚さんが会議室前方の電気を切り、スライドが映し出される。

 今川先生はスライドを使いながら、5回にわたる研修の流れを説明した。その中には、永塚さんがさっき話した研修の趣旨が、5回の中でどのように達成されるのかということや、我が社固有の事情についても盛り込まれていた。一緒に聞いていた私は、ようやくニューリーダー研修の全貌が見えた気がした。

 説明が終わると、永塚さんが電気を点ける。永塚さんと今川先生の息がぴったり合ってる。そういえば新人研修のときも、永塚さんはいいタイミングで電気を消したり点けたりしてくれていたっけ。その後の休憩時間に、永塚さんから「スライドを使うときに電気を消すのは、元谷さんがやってほしい」と言われてしまった。…そうか、それも私の仕事だったのか。タイミングを見計らうの、難しそう。

 アテンドは、ただ見ていたり、一緒に勉強したりするのが仕事なんじゃないってことだ。前に、永塚さんが「研修は講師だけで行うんじゃない」って言ってたけど、受講者が研修に集中できるように気を配ることは、アテンドの私にもできる。

 時間割では、オリエンテーションの後はアイスブレイクになっていた。アイスブレイクというのは、初対面の受講者の緊張を和らげ、コミュニケーションを促進し、チーム意識をつくり出すための第一歩となるワークのこと。これは前日に永塚さんから「アイスブレイクには参加した方がいい」と言われたときに、教わったんだけどね。このアイスブレイクのお陰で、私は自分よりも年上の受講者の方々と親しく会話することができ、なんとなく緊張が解けてほっとすることができた。

 それから事前課題の共有を行い、昼ご飯を挟んで、午後の部へと突入する。午後は企業戦略に関する話で、SWOT分析の話が始まった。

 SWOT分析とは、内部環境―今日の場合は鶴亀魔法瓶の事業―の強み・弱み と、外的環境の機会・脅威に分けて考える分析手法のこと。強み (Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)の頭文字で、SWOTだ。この辺りは大学で少しやったけれど、昼ご飯を食べた直後で、つい、ぼーっとなってくる。

 しかし、それは一瞬だった。隣の永塚さんからメモが渡され、ばっちり目が覚めた。メモには「次の休みに窓を開けろ」と書かれていた。会議室を見回すと、他にも集中力が散漫になった感じの受講者の方が何人かいる。ほどなくして休憩時間となり、私は窓を開けて回った。6月の風が会議室を吹きぬける。今日は天気も良くて気持ちよかった。研修って、色々と気を使うことがあるなぁ。