永塚さんはホワイトボードに、「あるべき状態」と「現状」とを縦に並べて書いた。そして、その間に上下の矢印を引いて、「問題」とした。

「問題っていうのは、あるべき状態と、現状の事実との差だ。この中間課題のあるべき状態には、提出締切の厳守、内容の質がある。じゃあ、元谷さんが言った自主性みたいなものは、どうだろうか?」
「積極的で自主的な活動というのが、研修全体の目標の中にあります。そういう姿勢は、集合研修の時だけでなく、中間課題に取り組む時にも必要だと思います」
「そうだな。でも、研修中はみんな積極的に議論してくれている。ちょっと現状を書き出してくれ。資料取ってくるから」

 永塚さんはペンを私に渡して、部屋を出ていってしまった。

 あるべき状態のところには、「提出締切の厳守」「内容の質」「自主的な活動」と書かれている。現状は、研修中のことと、この中間課題に対することの2つに分けてみようかなぁ。中間課題の現状として、「締切守らない」「未提出」「リーダー任せきり」「内容薄い」と書いた。さらに研修中は、「議論盛り上がる」と書き加える。いくつかのチームの議論を聞かせてもらったけれど、いろいろアイデアもでていたなぁ・・・。これも書いておくか。こうやって書き出すと、あるべき状態と現状が同じものは問題がないというのが一目瞭然だった。

現場で現物を見てこないと現実は見えない!

「待たせた」

 永塚さんが戻ってきて、どさっとファイルボックスを置いた。

「僕が去年の中間課題をやったときの資料だ」
「えっ」

 思わず顔がひきつってしまった。ファイルボックスの中には、紙がいっぱいにつまっている。

「これは提出物じゃなくて、提出物の元になったアンケートだ。去年は社内システムが今ほど充実してなかったから、アンケートは紙でやった。300人くらいから回答をもらって、その集計結果を中間課題として提出した。自分たちが発表した提言を裏付けるものとして、非常に役だった」
「このチーム、10人に聞いたというデータがありますが・・・」
「このチームのテーマは新商品開発だろ。社内やその家族10人にアンケートを取って、広い視野の意見が聞けると思うか?」
「・・・思いません」
「この研修の最後の提言では、実際のビジネスの判断が行われる。役員層が判断すべき事項であるという、重要性が伝わらなければいけない」

 慌ててホワイトボードに、あるべき状態「広い視野」「ビジネス上の判断要」「重要性伝わる」と現状「狭い視野」「ビジネス上の判断あいまい」「重要性伝わらない」と書き込んだ。

 こうしてホワイトボードには、あるべき状態からほど遠い現状が浮かび上がっていく。

「前回までの研修後のアンケートのデータを出せ。これから現状分析だ。次になぜ目標としている取り組みが行われていないのか、原因の仮説を考える。最後は受講者にヒアリングをして原因を明確にし、次の研修までに今川先生と内容の調整を行う」
「はい」
「現場・現物・現実だ。現場に行って現物を見てこないと現実は見えない!つまり、問題は解決しない!」
「ハイ!」

 ああ、永塚さんのスイッチがオンになってしまった。意味はよく分からないけど、ともかくハイというしかない。こういう永塚さんを止めることなんか、できやしないのだから。それからニューリーダー研修全体の目標や中間指標となっていたことを書き出し、現状分析を行った。原因として考えられる複数の仮説に至る頃、次に会議室を使う人がやってきたので、私たちは慌てて部屋を出た。