毎回研修の後に取っているアンケート結果は、他の研修のものより平均的に高い得点を得ており、この研修で問題が起こっているとは思えなかった。その中で最も辛口な評価をつけていたのは、中間課題を出していないチームのリーダー大西さんである。辛口といってもマイナス評価ではなく、「どちらでもない」というような回答だ。

 永塚さんとの打ち合わせで、中間課題のことだけでなく、研修そのものについもて話を聞いてみようということになり、再び大西さんに連絡を取った。だが、出張先から折り返してもらった電話で、「今、トラブル対応で忙しいから無理。もしかすると、研修にも行けないかも」と冷たく断られてしまった。まあ、お客様あっての会社ですから、そっちの方が大事なのは分かりますけど・・・。

 何人かに連絡して、ようやくヒアリングに応じてくれる人が見つかった。営業企画部の寺崎さんだ。寺崎さんは、新人研修の時に自社製品について説明してくれたので、他のメンバーの人よりもずっと親近感があった。おまけに、黒のセルフレームが似合っていて、ちょっと格好いい・・・と、私は思っている。

ヒアリングで見えてきた受講者とのギャップ

 寺崎さんとのヒアリングの日、永塚さんは急用が入ってしまい、私一人で対応することになった。私は寺崎さんに時間を取ってくれたことと、中間課題を提出してくれたことのお礼を伝え、今日はニューリーダー研修のことでいろいろお伺いしたいのですと切り出した。

「どうぞ。僕の分かる範囲のことだといいけど」
「では最初に、この研修の目的について、どのように受け止めていらっしゃいますか?」
「うちの会社の次世代を担うリーダーを育成しようというのは、大事な取り組みだと思ってるよ。その研修のメンバーに選んでもらったのだから、会社のためにも貢献していきたいともね。答えになってるかな?」
「はい。では、今回の中間課題や、研修中のワークといった活動にはどのように取り組まれていますか?」
「指示にそって取り組んでるつもりだけど」

 寺崎さんが私を黙って見つめた。質問が悪かったかなぁ。なんかドキドキしちゃうなぁ。

「研修中は電話やメールなどを止めているから、集中してやれていると思う。そこは元谷さんも見ていて、分かってくれるんじゃないかな。でも、中間課題は、チームメンバーはそれぞれ別の仕事を抱えてるし、なかなか時間が取れなくてね・・・。みんな、研修の2日間を空けておくだけでも苦労している」
「時間を取るのが大変なんですね。では、みなさんのモチベーションとしては、どうなんでしょうか?」
「うーん。やらなくちゃと思ってはいるけれど、どうしても優先順位は低くなっていると思う」
「そうなってしまう理由って、忙しいという以外になにかあると思いますか?」
「僕のチームの場合、どこから手をつけようか迷って、時間がかかってしまった。それに、過去にこの研修から実現化した取り組みがいくつかあるだろう。最近、ずいぶん改革も実行されていて、緊急度や重要度の高いテーマが残っていない印象があってね。二番煎じというか・・・。そんなに革新的なアイデアは思いつけないから・・・。逆に、実現が難しそうなテーマを選んだチームもあるし」
「どこから手をつけたらいいか迷ったのと、テーマの問題ですか」
「クラスの中には、しょせん研修じゃないかという人もいる。勉強にはなるけれど、すぐに実務に結びつくわけじゃないと思っているみたいだよ。他には、研修に出ていれば人事評価が上がるというか、箔がつくと思っているとか・・・」
「えっ、この研修は人事評価と結びついていませんけれど」

 当然伝わっていると思っていたことと逆の話が出て、私は思わず反論してしまった。

「そうだね。でも、ニューリーダー研修の過去の受講者は、一目置かれている人が多いから。出世コースというか、次世代のリーダーであることが約束されている印象があるんじゃないかなぁ」
「なるほど・・・。研修の趣旨に誤解があるような気がします。初日に永塚さんからもご説明しましたし、小谷専務もお話くださったのですが・・・」
「小谷専務?懇親会で激励にいらしていたね。貴重な機会だと思ったから飲みながらお話を伺ったけど、主に製品の省電力化のことについてだったかな」
「いや、乾杯の前にちょっと・・・」
「乾杯の前・・・?」

 小谷専務は乾杯の前に、研修への期待を話してくださったのだが、単なる挨拶だと思われてしまったらしい。それから20分間、寺崎さんは私の質問に丁寧に答えてくれた。そのおかげで、あるべき状態と現状の図の中で、現状の部分に追加すべき情報をたくさん入手することができた。