「おお、居た居た」

 大きな声で入ってきたのは、今話題に出ていた小谷専務である。

「会議でここにいるって聞いたから、直接話に来ちゃったよ」

 岩松課長は微妙に困った顔をしているが、倉持部長はちょっと驚いただけだった。

突然、会議室にやってきた小谷専務

「永塚君、ニューリーダーの初回は飲みに行っただけになっちゃったからねぇ。今度はしっかりやるから、安心したまえ」
「はい、よろしくお願いします」
「ぜんぜん違う話なんだが、最近、営業の活動がちょっと足らないと感じていてね。もっと積極的に動いてほしいんだよ。今までの地道に足で稼ぐ路線だけでなく、マーケティングセンスを磨いてもらって、こう、戦略的な営業活動をバンバンできるようにしたい」

 小谷専務が話に合わせてホワイトボードを叩いた。会議室が水を打ったように静まり返っている。いや、もともと静かに会議が行われていたので、むしろ小谷専務の登場でにぎやかになったというべきかもしれないけれど。

「営業推進の方からも、そういう話が出てきたんだが、こういう研修は人材開発でやるべきだろう。だから、マーケティング研修やろうじゃないか、倉持君!」

 倉持部長はちょっと考え込んでから、冷静に返事をした。

「分かりました。後ほど、詳しいお話を伺いに参ります」
「じゃあ、頼んだよ。打ち合わせの時間は秘書と相談しておいて」

 小谷専務は入ってきたときと同様、突然会議室を出ていってしまった。なんだったんだろう・・・。あれは・・・。普通、会議にいきなり専務が乱入したりするものだろうか。

「元谷さん、あなた、大学でマーケティングやっていませんでしたか」

 今度は突然、倉持部長が私に話をふってきた。なんで私に?!

「は、はい。統計的な分析は苦手ですが、理論は一通りやってます」
「では、営業推進部から要望などの情報収集をしてください。なるべく早くお願いします。私は小谷専務と話し合って、全体の進め方や担当などを決めますから」
「わかりました」
「では、今日の会議はこれで終わりにしましょう」

 ようやく自分が得意分野で仕事ができそうな気がするけど、突然降って湧いたマーケティング研修が一体どうなるのか、さっぱり想像できなかった。